民主党支持者だったクシュナーはある意味トランプ政権内の民主党員、「行政管理国家の解体」という哲学があるバノンを用いよ!
[FT]トランプ大統領にまだバノン氏が必要な理由 (写真=AP) :日本経済新聞より引用
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やれやれ、これで一安心だ。トランプ米大統領が軍人出身者に主導権を委ねるのに100日もかからなかった。差し迫った文明の衝突の大立役者であるバノン首席戦略官は、すでに脇に追いやられた。欧州域内の米国の同盟国は、音が聞こえるような安堵のため息をついている。ロシアのプーチン大統領はもう、トランプ氏の親友ではない。民主党と共和党のタカ派は一様に、まだトランプ氏に称賛を浴びせている。もう一度、巡航ミサイル「トマホーク」を一斉発射したら、それで合意がまとまるはずだ。今やすべてが許された。バノン氏よ、さようなら。「トランプ2.0」へようこそ――。
悲しいかな、ほぼ普遍的なこの見方には欠陥がある。バノン氏は姿を消したわけではない。実際、同氏はトランプ政権内で戦略的な頭脳に近いものを持っている唯一の人物だ。クシュナー上級顧問は義父のトランプ氏と同様、人脈形成の才を持ったマンハッタンの不動産業者だ。だが、世界観を持っていない。
マティス国防長官は、鋭い軍事的頭脳の持ち主だ。しかし、戦場での知性を戦略と混同してはならない。クシュナー氏と手を組んでバノン氏を脇に追いやったマクマスター大統領補佐官(国家安全保障担当)についても同じことが言える。ティラーソン国務長官はまだ、未知数だ。今後、考えをころころ変えるのも確実だ。先週のシリア攻撃の後、ティラーソン氏はトランプ政権の目標はシリアのアサド大統領を退陣させることだと述べた。その前の週には、正反対のことを言っていた。トランプ氏についていくのは難しいのだ。
■中東に関してはバノン氏に一理あり
バノン氏のことを好きか嫌いかは別にして、同氏の考えは一貫している。また、トランプ氏の考えにも一番近い。さらに、トランプ氏はまだバノン氏を必要としている。バノン氏の世界観は明白だ。米国はあまりに長い間、気に入らないミサイル攻撃をめったに認めないワシントンの外交政策のエスタブリッシュメント(支配階級)の批判に従ってきた。報道によれば、バノン氏は先週の攻撃に反対していた。それには彼なりの理由があった。1つ目は、米国には新たな中東の泥沼にのみ込まれる余裕はない、ということだ。
トランプ氏の行動が戦略的な空白の中で起きた可能性はある。もっと言えば、その可能性が高い。トランプ氏はテレビでシリアの殺りくを見て、リモコンに手を伸ばしたわけだ。だとすると、例の59発のトマホークは軍事版のツイートだった可能性がある。次の武器は違うかもしれない。
その一方で、ミサイル攻撃はトランプ氏がシリアの未来を手中に収める新たな段階の序章だった可能性もある。幸運を祈るが、まず無理だろう。シリア問題を解決するには、キッシンジャー元国務長官並みの策略とレーガン元大統領並みの強運が必要になる。トランプ氏は、次に衝動に駆られたとき、バノン氏の言うことに耳を傾けたほうがいいかもしれない。間違いなく、バノン氏は別の状況においては、扇動的な助言をすることができる。例えば、中国との衝突がそれだ。だが、中東に関しては、バノン氏の本能は健全だ。
トランプ氏はバノン氏の経済的な助言も脇に追いやっている。今後数週間で、トランプ政権は米国の税制改革に向けた計画を発表する。トランプ氏に投票した支持者らにとって最も重要な要素は、1兆ドルかけてインフラを近代化する約束だ。それが、いわゆる「忘れられた米国人」に対するトランプ氏の誓いの中核だった。同氏は中西部に雇用をもたらし、溶接工に誇りを取り戻す。ここでも、エスタブリッシュメントの発言が議論に勝ってきた。トランプ氏は、ウォール街と共和党の旧来の減税派アドバイザーに取り囲まれている。
トランプ氏がその代わりに、中産階級のための財政政策に重点を置くのであれば、民主党と手を組む必要がある。すべての兆候は、同氏が反対方向に向かっていることを示している。ワシントンは急激に、昨年、有権者からあれほど激しく拒絶された類いの政策に戻りつつある。軍人出身者らがトランプ氏の「米国第一」の外交政策を締め出しているように、ウォール街が経済的な議論に勝ちつつある。
どちらの場合も、バノン氏は敗者だ。もちろん、多くの大きな問題では、負けるべくして負けた。メキシコ国境の壁は最初から、高くつく無用の長物だった。中東6カ国から訪れる市民の入国禁止は、裁判所に差し止められるべき無用な挑発だった。「オルトライト(ネット右翼)」の悪党連中に送る目配せは許しがたいことだ。
■当選に導いた有権者への約束はどこへ?
しかし、トランプ氏に投票した人をファシストや「嘆かわしい人たち(basket of deplorables、注:昨年の米大統領選でクリントン元国務長官がトランプ支持者を指した言葉)」と混同すべきでない。トランプ氏に投票した数百万人の米国人は、オバマ前大統領にも投票した。よく言われるように、トランプ氏の支持基盤は同氏を真剣に受け止めたが、文字通りには受け止めなかった。
支持者が聞いたのは、米国の中産階級に再びスポットライトを当てるという約束だった。これは、無謀な戦争をもうやらないことを意味した。ジョージ・W・ブッシュ元大統領のイラク戦争に対するトランプ氏の攻撃は、同氏の選挙運動を大きく変えた瞬間だった。
トランプ氏の約束は、大金持ちへの迎合をやめることも意味した。トランプ氏の選挙運動は、共和党史上初めて成功したブルーカラーの有権者向けへのプレゼンだった。その立役者の一人がバノン氏だった。
バノン氏のために涙するのは不可能だ。涙を流すのは早計でもある。バノン氏はまだ、オーバルオフィス(大統領執務室)から石を投げれば届く距離にいる。さらに、同氏の助言がすべて理不尽なわけでもない。政治家は、有権者への約束の少なくとも一部は果たそうとすべきだ。もしトランプ氏の大統領選出が何かの合図を送ったのだとすれば、それはワシントンのエスタブリッシュメントが期待を裏切ったということだ。米国の政治は、破壊されてしかるべきだった。今もそうだ。バノン氏の命運は、トランプ氏が自らが大統領に選ばれた理由を覚えているかどうかを測る一番の尺度だ。
By Edward Luce
(2017年4月13日付 英フィナンシャル・タイムズ紙 https://www.ft.com/)
(c) The Financial Times Limited 2017. All Rights Reserved. The Nikkei Inc. is solely responsible for providing this translated content and The Financial Times Limited does not accept any liability for the accuracy or quality of the translation.
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実に見事な分析と主張である。
このブログでは11日にハフィントンの記事を紹介した。
バノンの更迭とクシュナーに関する報道と一言 - 原理講論を読む
そこには、バノンとクシュナーの対立をこう表現する
「国家主義者と『ホワイトハウス内部の民主党員』の間で激しい主導権争いが起きている」
クシュナーによって取り囲まれた閣僚が結構いることがわかる。
哲学がないどころか、彼は最近まで民主党支持者だったのである。
そういう人間が簡単に保守的な思想に偏向することは不可能ではないにせよ、相当な時間がかかる。
また、トランプ大統領に影響力があるとされている、娘のイヴァンカはオバマ時代のLGBT法案をひっくり返そうとするトランプ大統領の足を引っ張っている。
キリスト教会の支持を背景とする共和党の保守的な思想とLGBTは相容れない。
家庭の秩序を破壊するものだからである。
クシュナーとイヴァンカは、大統領選挙で訴えてきた価値観をひっくり返し、民主党よりにしていく傾向が強い。
彼等をホワイトハウスから追い出さなければ、トランプ支持者はトランプ大統領の敵になるだろう。
ここでは、11日に紹介したものの一部を思い起こしてみたい。
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しかし政治ニュースサイト「ポリティコ」が複数の匿名情報筋から得た情報によると、バノン氏の左遷劇の裏の立役者はクシュナー氏だったという。
そもそも初めから、バノン氏のポピュリズム的政治手法と、「行政国家を解体する」という願望を公言してはばからない姿勢は、政権運営に関して比較的官僚的な姿勢のクシュナー氏と対立状態にあった。
クシュナー氏は最近ホワイトハウスの同僚に、「バノン氏の国家主義的な思想がトランプ氏にダメージを与えている」と語っていたとされる。さらにバノン氏の極右的思想が、トランプ氏が持つ資質のなかでも最悪の部分を引き出していることを懸念しているという。
トランプ氏は就任後最初の10週間で政権運営に弾みを付けようとしたが、ホワイトハウス高官の陰謀、選挙陣営とロシアとの接触に関する度重なる捜査、目玉政策の失敗がたたり、行き詰まっている。
「国家主義者と『ホワイトハウス内部の民主党員』の間で激しい主導権争いが起きている」と、ある政府高官はポリティコに語った。
バノン氏が衝突した相手はクシュナー氏だけではない。ゲーリー・コーン経済担当大統領補佐官も同様に対立している。コーン補佐官は、ゴールドマン・サックスの前社長でクシュナー氏とは親しい間柄だ。
マイク・ペンス副大統領もバノン氏とは距離を置いた動きをしている。3月に共和党が提出した健康保険制度改革法案(トランプケア)をめぐり、バノン氏は下院共和党の保守派「下院自由議員連盟」(フリーダム・コーカス)の議員に、「いいか諸君。これは話し合いではない。討論でもない。この法案に賛成票を投じる以外、君たちに選択肢はない」と、高圧的に最後通告を突きつけたが、裏目に出て保守派の離反を招いた。するとペンス氏は、連邦議会に出向き、溝を修復しようと折衝を重ねた。
フリン氏の辞任に伴い、トランプ大統領はH.R.マクマスター陸軍中将を新たに国家安全保障補佐官に任命した。マクマスター氏は就任直後から、フリン氏が連れてきたメンバーをNSCから追放した。追放されたメンバーたちは、クシュナー氏よりバノン氏との関係が強かった。
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さて、以下の記事には、クシュナーが民主党的思想の持ち主であることを 指摘している。
トランプ大統領、スティーブ・バノン氏の更迭を示唆「いい奴だが......」 から引用
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バノン氏は、ホワイトハウス内でトランプ氏の娘婿ジャレッド・クシュナー氏と対立していると伝えられている。この2人の政治手法や哲学は水と油だ。バノン氏は「行政国家の解体」を目指すイデオロギー的な活動家だが、クシュナー氏は最近まで民主党支持者だった。
バノン氏は5日、クシュナー氏の進言で国家安全保障理事会(NSC)のメンバーから外された。また、トランプ氏はニューヨークポストに、クシュナー氏とバノン氏の対立について、「見解の相違を解決する必要がある」と警告したと述べた。
「スティーブはいい奴だ。2人には、自分たちでかたをつけるよう指示した。それが出来なければ私がやるまでだ、と言っている」と、トランプ氏は語った。
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