英国選挙事情がわかる記事の紹介
【英総選挙】 英国人ではない人向けの解説 - BBCニュース より引用
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英国の有権者が6月8日、国会議員650人全員を決めるため投票所に行くのだという話は、聞いたことがあるかもしれない。
とは言うものの、「Tory」が何か分からない、「Plaid Cymru」の発音も分からないという方のために、英総選挙について集中講座をお届けしましょう。
なぜ選挙? 新しい首相に変わったばかりでは?
英国ではここ1年、政治の世界は実にバタバタと忙しかった。
そう、確かに2015年5月に選挙をしたばかりだ。小規模政党と連立政権を組んでいた与党・保守党が、予想外にも、僅差ながら単独過半数を得たのだ。
当時の保守党は選挙戦略として、欧州連合(EU)について国民投票を行うとの公約していた。もっとも、EUに留まるというのが保守党の正式な方針だったのだが。
この公約にもとづき、ブレグジット(英国のEU離脱)の是非を問う国民投票が2016年6月に実施された。そしてその結果に大勢が驚いた。有権者は、EU離脱を選んだのだ。
しかし当時のデイビッド ・キャメロン首相は残留を訴えていた。そのため、国民投票での敗北を受けた首相は、政府トップの地位から降りるべきだと自ら判断した。
続いてテリーザ・メイ氏が首相となり(その経緯は後述)、政府は5年の任期を全うすると繰り返し発言していた。
それが4月、メイ首相は突然、わずか7週間後に新たに選挙をすると言い出したのだ。
なぜか? ブレグジットの条件をEUと交渉するにあたり、政治的安定を確保するためにより大きい過半数を議会で確保したいのだと、首相は説明した。
しかし実のところ、最大野党・労働党の支持率低迷を首相が政治的な好機と捉えたのだろうと、反対勢力は考えている。
なるほど、では主要政党と違いは?
英国は伝統的に、2大政党のある国だ。「トーリー」のあだ名が付いた保守党と、労働党だ。
(「Tory」とはそもそも、「悪党」を意味するゲール語由来でアイルランドで使われた表現だったが、1670年代後半からカトリックのジェイムズ2世の即位を支持した勢力の悪名ととなり、ジェイムズ2世即位後には大政党の呼び名となった)
保守党は伝統的に右寄りで、労働組合運動に端を発する労働党は左寄りだ。
この2つの巨大政党のほかに、かつては強力だったものの前回選挙で消滅寸前までいった中道派の自由民主党、環境重視の緑の党、そしてブレグジット推進派で右派のイギリス独立党 (UKIP)などがある。
英国内で圧倒的に人口の多いイングランドが、最大の533議席を持つ。
スコットランドでは、スコットランド国民党(SNP)が2015年の総選挙で労働党から議席を奪い、59議席中56議席の圧倒的過半数を得ている。SNPはこれを維持したいところ。国際的には、スコットランド独立への活動で有名だ。
ウェールズでは、ウェールズ語で「ウェールズの党」という意味のプライド・カムリが40議席中3議席を獲得している。また、北アイルランドにさらに18議席がある。
2人の党首の物語
英総選挙の投票の仕組みは簡単だ。その選挙区で最も票を多く獲得した候補が勝つ。移譲制も比例代表制もない。
この制度は小さい政党よりも、従来からの大規模政党に有利になりがちで、戦略的投票が重要となる。
そしてそれゆえに、各選挙区の候補者だけでなく、勝てば首相になるかもしれない党首にも厳しい視線が集まる。
厳しい目線にさらされている党首とはこの場合、テリーザ・メイ氏(保守党)とジェレミー・コービン氏(労働党)だ。
しかし2人とも異例の党首だ。
昨年夏の保守党党首選は、それ自体が政治メロドラマそのものだった。「自分は出ない」とテレビの生放送中に発表する党幹部がいたり、BBCの政治記者が、「リチャード3世と映画『スカーフェイス』を足して2で割り、ちょっと『ゴッドファーザー』を付け足した感じ」と呼んだりしたほどだった。
結局、最後に残った候補はテリーザ・メイ氏独りで、決選投票のないまま不戦勝で英国の新首相となった。
一方で、労働党のコービン氏は、英国の政治史でも最大級の番狂わせで党首になった人だ。揺るぎない社会主義者のコービン氏は当時66歳だった2015年、とてつもないどんでん返しで労働党の党首選に勝利した。
コービン氏が渋々ながら党首選に出馬したのは、党内左派からほかに誰も出ようとしなかったからだ。ブックメーカーは、コービン氏の勝率は200対1と予測していた。
労働党の一般党員による草の根活動で勢いに乗り、コービン氏は勝った。しかしそのため党内は分裂し、労働党議員はすぐさま、新党首を退陣させようとした。
しかし、労働党の危機につけこもうとする政敵の画策をよそに、自転車乗りで左寄りのコービン氏は、有権者の間の人気に支えられてきた。
なぜ重要なのか? すべてはブレグジット
簡単に言えば、保守党が言うところの(何度も何度も言うところの)、ブレグジット交渉で「強く安定した 」状態を保つため、議会の安定過半数を求めている。
メイ首相が総選挙を発表した時、世論調査はメイ氏の地滑り的圧勝を予測。首相は政治的権力の足固めをするだろうと思われていた。しかし政治の世界の動きは速い。
これまでに300万人近くの人が、有権者登録を済ませたた。25歳未満の人は100万人以上だ。これが選挙結果にどう影響するかは不明だ。
世論調査では、あくまでも参考程度だが、労働党が差を縮めているようだ。
マンチェスターで5月22日に起きた自爆攻撃は、支持率の推移にそれほど影響していない様子だ。そして今でも、総選挙で勝つのは保守党だろうというのが、大方の見方だ。
しかし保守党が議席を減らした場合、可能性としては低いものの、これまでの流れとはとまったく別の考えの持ち主が欧州との交渉のテーブルに着く可能性もある。
とは言うものの、労働党もブレグジットを推進するつもりだと話している。なので問題は、ブレグジットを「やるのかやらないのか」ではなく「どうやってやるのか」だろう。
別の可能性もある。タイムズ紙が一面で大々的に掲載した最近の世論調査は、保守党が議席を減らし、「ハング・パーラメント(宙吊り議会)」 になる可能性を示している。
「ハング・パーラメント」とは、単独過半数の党がいない状態のことだ。連立政権が通常の状態となっている国では普通のことかもしれないが、英国ではいささか珍しい。
私は英国に住む(あるいは住みたい)外国人だが、影響を受ける?
ほぼ確実に。移民は選挙戦の一大テーマだ。
現在の保守党政権は、純移動、つまり英国の入国者数から出国者数を引いた数を、年間「数万人」程度にまでを縮めたいと考えている(現在は年間24万8000人の純増)。
保守党の選挙公約は、4月に導入した最高1000ポンド(約14万円)の課徴金「移民技能負担金 」を倍増させたいとしている。この負担金は、外国人労働者の身元引受人となった企業に、外国人労働者1あたり課金される。
保守党はさらに、家族ビザで入国する場合の最低所得を上げ、学生ビザも要件を「厳格化」すると公約している。
加えて、国民保健サービス(NHS) を外国人に使用させるために外国人が払うべき課徴金の健康保険付加料 を、現状の200ポンド(約28000円)から3倍の600ポンドに引き上げると方針を示している。
対する労働党は、ブレグジットによって欧州からの自由な人の流れが終わると認めているが、「移民をスケープゴート」にはしないと約束している。
移民の収入要件を引き上げる代わりに、労働党はこの制度自体を終わらせ、むしろいったん入国したら公的補助に頼らず生活することを義務付ける方針だ。
労働党の選挙公約は「人種を問わず、すでに英国で就労している人を保護する」と約束し、移民の数に留学生は含めない方針だ。
しかし同時に、国境警備員を500人追加採用するとしている。
自由民主党と緑の党は、英国とEU間の自由な人の動きを支持している。「高技能移民」の受け入れにつながると自由民主党は主張するほか、労働党やプライド・カムリと同様に、移民統計から留学生は除外するとしている。
緑の党はさらに、「人道的」な移民・難民受け入れ制度を提唱。プライド・カムリは、ウェールズ限定のビザを新しく導入する方針を示している。
分かった。私は英国在住の外国人だけど、投票できる?
すでに登録していない限り投票できない。締め切りは5月22日だった。
そもそも、英国民でなければ投票はできない。ただし、アイルランド国籍や、英連邦加盟国の国籍で合法的に英国在住している人は投票できる。
アイルランドや英連邦の国の出身で、前にも例えば地方選挙やブレグジットの国民投票でに登録したなら、選挙人名簿に名前が記載されている可能性が高い。地元の自治体で確認できる。
(英語記事 General election 2017: The non-Brit's guide to the UK election)
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