原理講論を読む

日常生活の中で 考える糸口を求めて

世には訊いてはならぬ愚問があり、人には答えてはならぬ正解がある

武士の情けというものがある。

敵味方に分かれるなかで、非情の中にも温情を見せるのが

武士の魂だというのである。

 

訊いて良い質問と訊いてはならない質問がある。

正直者たちに一旦伺えば

身内も他人の区別なく明らかにされてしまうからである。

 

私という人間が大罪を犯してきて、強姦もし窃盗もし、同性愛もし、

ありとあらゆる悪事と罪を重ねてきても、

告白文の中に消えていく。

私という人間に責任を持たれた方たちが

とりなしのために見ることがあるかもしれない。

だが、あたかも何もなかったかのように

すべては神の消しゴムで消されていくのである。

 

一体一度ならず二度までも

「あなたの生きているお母さんは、不倫をしたのですか?それは本当ですか?」

とその息子たちに聞く人がいるのだろうか?

 

それがあなたの永遠の命と何の関わりがある。

それが彼らの母親の永遠の命と何の関わりがある。

それがどうしても道に迷った人々を救うために必要なことであろうか?

美しかった母が、悪魔どもにすっかり騙されて、

人相は変わり果てすさみ、懐かしい面影は消え去った。

それで十分ではないかと。

 

苦労した母が老いて祖母になった楽しみは

孫とともに過ごす時間であろう。

孫が祖母の秘密が公然となったことを喜ぶのだろうか?

我々は母の間違いに止めを刺さなければならない。

だが、それはかくも酷い質問の答えにあるのだろうか?

 

世には訊いてはならぬ愚問があり、

人には答えてはならぬ正解がある。

ひとり推して測るべし。

 

7年、21年、40年と偉大な勝利の金字塔を内建てられたお方。

深手を負って息も絶え絶えであり、これ以上は無駄に苦しませるには忍びないとて

止めの刃を刺し抜く。

「御免、武士の情けだ」

その心情でやむなく聞かざるを得ない質問であれば、

致し方ないのであろうか?

 

3000双の命に換えても、お救いしたいお方であるという心で

問われたというのであろうか?

さもなくば、なんと情けない恩知らず

なんと軽薄な心であろうか?

 

天はここまで開示しても救われる価値が我らにありと感じておられるというのか?

天は黙し、我は何かを語らねばなるまい。

知るとはどういうことであろうか?

一体何を知ることができるというのか?

 

天は知らない人間には責任を求めない。

だが、知った人間には責任がある。

 

趙州禅師がその師である南泉に随侍していた頃、師に質問をされた。

 

 師、南泉に問う、「如何なるか是れ道」。南泉は答えた、「平常心是れ」と。師は言う、「それを目標に修行すべきでしょうか」。南泉、「何かを目標にして求めると外(そ)れてしまう」。師は言う、それを目標に修行しなければ、どうして、それが道だとわかりましょうか」。南泉、「道は知・不知と関係がない。知は妄覚であり、不知は無記(無意味)だ。もし本当に疑いのない道に達するならば、ちょうど虚空のようにカラッとして、何のさわりもなくなる。是だの非だのという余地は全くなくなるよ」と。師は言下に、その本旨を悟って、明月のような心境を得た。

窪田慈雲著「心に甦る 趙州録」 より

 

窪田慈雲は以下のようにこれを解説している。

 

●私解 この問答で趙州は大悟徹底することができた。趙州も初めは、何とか真の仏道を手に入れようとして論理的に追求に追求を重ねたに違いない。ところが南泉に、論理的に追求して得た知識は妄覚であり、観念のカスであって何の役にも立たない。そうかといって、悟りもしないで、あるがまんまの生活のままで良いというのも無記(無意味)であって、拠り処がないから、常にぐらぐらと不安定であると言われた。

 ところが趙州は、南泉から突然に、「道は知にも属せず不知にも属せず」と言われた途端、今まで知ろう知ろうと思って追求してきた「自分」というカタマリがなくなって、全く虚空のようにカラッと何のさわりもない「自己なき自己」に復活することができた。復活してみると、それこそ是だの非だのと理屈をいう余地は全くなくなって、立ったり坐ったり、泣いたり笑ったり、滑ったりころんだりする平常心のほかに道はなかったという事実に気がついた。

 この体験はなにも趙州だけに限らない。誰でも正師について座禅弁道すれば必ず手にすることができる境地である。これこそ真の仏道修行であって、もともと何も難しいことではない。

 

自分の立場で質問する人あり、

他人の立場で質問する人もあり、

また連体の立場で質問する人まれにあり。

主体格位、対象格位、連体意識。

アージュ

 

心に甦る「趙州録」

心に甦る「趙州録」

 

 

 


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