リポート:太田佑介記者(国際部)
アメリカ南東部・サウスカロライナ州。
アメリカの自動車メーカー「ケント」は3年前、製品の組み立て工場を中国から移転しました。
製品にはアメリカで組み立てられたことを示す「Assembled in U.S.A」のステッカーが貼られています。
親子3代にわたって自転車メーカーを経営するアーノルド・カムラーさんです。
1990年代に国内の工場を閉鎖し、中国の工場での生産に切り替えました。
しかしその後、中国で人件費が上昇。
また、取引先の小売最大手「ウォルマート」も、アメリカ製品の取り扱いを増やしました。
さらに、当時の州知事で、現在トランプ政権で国連大使を務めるヘイリー氏も、工場のインフラ整備などを支援。
そのため、カムラーさんは工場を再びアメリカ国内に戻しました。
自転車メーカー アーノルド・カムラー社長
「アメリカの自転車産業復活の先駆けになりたいと考えた。」
しかし、早速アメリカ人労働者の人件費の高さに直面し、機械化を進める必要に迫られました。
太田佑介記者(国際部)
「こちらの工程では、中国で15人で行っていた作業を、ロボットを導入することで、たった1人で行えるようになったということです。」
工場で目立つのは、最新の産業用ロボット。
中国では人手がかかっていた塗装も…。
アメリカでは完全に機械化されています。
その分、アメリカの工場で雇った従業員の数は、中国の工場の半分。
およそ140人にとどまっています。
自転車メーカー アーノルド・カムラー社長
「機械化は私たちに必要不可欠で、あらゆる面でコストの削減が必要だ。」
さらにカムラーさんは、部品の調達に苦しんでいます。
製造している自転車には、サドルやハンドルなど40の部品が必要です。
アメリカ製の部品を求め、国内の40社ほどに製造を依頼しましたが、アジア製の7倍ほどの値段を提示されました。
このため、もともと使っていたアジア製の部品を輸入し続けるしかありませんでした。
「アメリカに自転車産業は残っていないのですか?」
自転車メーカー アーノルド・カムラー社長
「全て失われた。
ゼロから始めなければならない。」
ところがその輸入部品について、トランプ政権は国内の産業を守るためだとして、関税を引き上げると宣言。
部品の値段が上がればコストがさらに上がり、競争力が弱まります。
自転車メーカー アーノルド・カムラー社長
「アメリカ製だからといって、顧客が高い商品を買うとは思わない。
トランプ政権から応援のかけ声ではなく、具体的な支援が欲しい。」
また、トランプ大統領が進めてきた移民の規制や摘発が、製造業に影響を広げています。
インディアナ州でトラックの部品などを鋳造する工場です。
工場でかつて働いていた労働者の半数近くはヒスパニック系で、多くが正規の滞在資格を持っていなかったとみられます。
このため、トランプ大統領が去年(2016年)の選挙で勝利したとたん、募集をしてもヒスパニック系の労働者は摘発を恐れ、応募してこなくなりました。
工場では、景気回復を受け部品の受注が増えたため、白人労働者の採用を進めようとしました。
しかし…。
部品メーカー 採用担当者
「これが不採用にした人たちのリストです。」
応募してきた白人労働者に尿検査を実施した所、半数近くに違法薬物を使用した疑いが発覚し、採用を見送りました。
さらに、採用しても「仕事がきつい」などの理由から、職場に来なくなる人も続出しました。
注文は増えているにもかかわらず、人手不足で生産が追い付かず、他の企業に仕事を奪われるという皮肉な状況となっています。
部品メーカー ジェームス・ブラウン社長
「先週も中国に仕事を取られたし、常に30人ほどの人手不足が続いている。
人手不足で製造ラインを止めることもある。
本当に複雑な心境だ。」