トランプ大統領による貿易戦争ではなく貿易是正という側面
トランプ大統領が中国やカナダなどの国や、日本においても貿易戦争を仕掛けてくるという報道や判断が多く出回っている。
確かに現象的に見ればそのように思うことは無理からぬことなのかもしれない。
だが、なぜアメリカはそのようにせざるを得ないと考えているのだろうか?
日本において、家電商品の輸出が全盛を極めていた頃があった。
アジアでは人はたくさんいたが、ものづくりの技術がなかった頃には、日本の競争相手になる存在はなかった。
人件費が低いアジアに生産拠点を移してコストを削減し、競争力を高めて販売してきたが、次第に開発途上国が技術の向上やインフラの整備がなされてくると、
その国で起こった企業にかなわなくなる。
そこで、日本はより付加価値が高い製品を製造して、バッティングしないように棲み分けるようになった。
アメリカが作り合意したルールの数々も、
多くの国々がアメリカのような国力を持たないようなときに交わされたルールであったが、アメリカが弱小国だと思っていた国々も成長し、子供ではなく立派な大人になったときに、子供相手にハンディをつけるように結ばれたルールは、
アメリカにとって不平等なルールに変質してしまった。
アメリカにとっての約束は、昔のような情勢を前提として成り立っていたが、
今日は当時の状況とは大きく変わってきている。
今度は、あなた達がなんとか歩み寄ってほしいというのが本当のことだろう。
中には中国のように、アメリカの知的所有権を侵害して、成長に拍車をかけてきたものたちもいる。
このような不公平な環境を放おって置くなら、
別の方法でこれを是正しようというのが、アメリカの気持ちではないのか。
そうした観点で、いわゆる貿易戦争として報道されている内容を見つめていくことが有益なのではないかと思う。
“トランプ発”貿易戦争の衝撃 ~日本・世界経済への影響は?~ - NHK クローズアップ現代+ より引用
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トランプ政権が突き進む中国との“貿易戦争”が激しさを増している。既に発動している計500億ドル分に加え、今後、2000億ドル相当の輸入品に25%もの関税をかける動きまで見せている。行き過ぎた保護主義による米経済への悪影響も指摘される中、さらに、トランプ政権は輸入自動車の関税の引き上げまで検討。仮に発動されれば、日本の自動車メーカーや関連企業にとっても深刻な打撃となる。今後の展開次第では、私たちの暮らしにも影響を与えうる“貿易戦争”。その最前線の現場と、日本や世界経済への影響を探る。
“貿易戦争”最前線にカメラが… 振り回される日本企業
トランプ大統領が仕掛ける貿易戦争に、日本企業が振り回されています。愛知県にある大手自動車部品メーカーでは今、経営戦略の見直しを迫られています。この会社が毎日必死に追っているのが…。
住友理工 広報担当 富田美貴部長
「いち早く情報をとるためには、ツイッターの情報共有がいちばん早い。」
トランプ大統領のツイッターです。すべてのつぶやきを翻訳し幹部全員に報告しているのです。
住友理工 広報担当 富田美貴部長
「“関税はこれまで誰もが予想しなかった以上に、はるかに効果が出ている”。“アメリカ最優先だ”みたいなことを言ってますね。」
この会社の海外拠点では、すでにアメリカの関税措置によって損失が出るおそれがあります。今後、トランプ大統領が検討している自動車関税が課されれば、その打撃は計り知れません。
住友理工 西村義明会長
「ひと言でいえば困ったもんだ。自動車関連事業にとっては大問題。」
見えた!トランプ大統領の狙い
世界各国に貿易戦争を仕掛けるトランプ大統領。目下の標的は、最大の貿易赤字を抱える中国です。
「彼らの経済はひどい状況です。」
アメリカ トランプ大統領
「両国の関係が悪くなるが、この方法しかない。」
アメリカから、すでに500億ドルの品目に高い関税がかけられている中国。広東省の部品メーカーは深刻な打撃を受けています。アメリカに輸出する製品の3分の2が、高い関税の対象になってしまったのです。
機械部品メーカー担当者
「本当に(関税を)引き上げるとは思いませんでした。中国の製造業は工場を減らしていく可能性があります。」
なぜ、トランプ大統領は中国に対し強硬策を取るのか。その背景には、11月の中間選挙を前にみずからの支持者の利益を守るという狙いがあります。
アメリカ トランプ大統領
「今日は、皆さんの地域とアメリカの勝利を祝いにやってきた。アメリカの鉄鋼を、この国の背骨に再び流し込む!」
トランプ大統領が貿易政策の成果をアピールしたのは、イリノイ州グラニットシティ。鉄鋼と製造業に支えられてきた町です。町を訪ねると、新たに仕事を得た労働者たちで活気にあふれていました。
「みんな失業して、家族も困っていました。今はとてもよくなっています。」
この30年、中国など海外からの安い鉄鋼に押され、縮小の一途をたどってきたアメリカの鉄鋼業。海外からの鉄鋼に高い関税をかけたことで、国内産に注文が殺到。工場が相次いで再開されています。3年前に閉鎖され2,000人が解雇されたこの製鉄所も、この夏、再開されました。
「会社に応募した理由はなんですか?」
「お金です。」
「福利厚生です。」
800人が新たに雇われることになり、連日、採用研修が行われています。
再雇用された男性
「トランプの政策のおかげで救われました。景気がよくなり、うれしいです。」
組合幹部
「我々は30年にわたって不利な立場で、貿易も不公平でした。鉄鋼産業を守るには、こういった方法しかないのです。」
トランプ大統領と20年前から親交があり、貿易政策のアドバイザーを務めているダン・ディミコ氏が取材に応じました。強硬な貿易政策も、支持者から強く後押しされているといいます。
トランプ政権アドバイザー ダン・ディミコ氏
「賢明な我々の支持者は、今も大統領の貿易政策を支持しています。我々は“強い行動を取るべきだ”と(大統領に)助言しました。大統領は、まだまだやるつもりです。中国が受ける痛手はすさまじいものになるでしょう。」
今後もエスカレートか!?
アメリカの関税措置に対して、中国は激しく反発しています。
中国 李克強首相
「どこかの国が関税を引き上げれば、対抗措置をとる!」
アメリカが関税措置を取るたびに、中国は豚肉や大豆などアメリカの主要産業を狙って報復を繰り返しているのです。
中国政府に近い専門家は、アメリカが引かないかぎり中国は報復を続けるといいます。
中国人民大学 賈晋京首席研究員
「中国には大きな経済と市場があるため、貿易摩擦に耐えられます。アメリカが長期戦を望むなら、中国は最後まで対抗するでしょう。」
アメリカでは、中国からの報復関税によって、すでに農業が打撃を受け始めています。製鉄所の近くで5代続けて農業を営んできた、ポーラ・シェルトンさんです。
「農業を続けて何年ですか?」
農家 ポーラ・シェルトンさん
「45年くらい続けているわ。長いでしょう。」
この2か月、生産している大豆の価格が急激に下がっているといいます。
農家 ポーラ・シェルトンさん
「価格が低いまま出荷しなければならず、多額の損失が出ます。」
これまで、アメリカの大豆の主要な輸出先だった中国。中国の報復関税で輸出が難しくなったため、国内に大豆が余り、価格が下がり続けているのです。
この日、最新の取り引き価格を確認したポーラさんは、言葉を失いました。
農家 ポーラ・シェルトンさん
「えっ!なに!?そんなはずない!思っていたより悪い数字だわ!」
大豆の価格が、利益が見込めるぎりぎりの8ドルを割り込んでいたのです。
年間11万ドルの大幅な赤字になることが初めて分かりました。
トランプ政権は農業分野への救済措置を打ち出しましたが、ポーラさんは、このままでは立ち行かなくなるといいます。
農家 ポーラ・シェルトンさん
「私たちは救済措置を求めていません。ただ貿易をさせてくれれば、それでいい。この地域の農家は壊滅的です。」
国内産業にマイナスの影響も出始めたアメリカ。それでもトランプ大統領は中国に対し、さらに2,000億ドルもの関税措置を追加しようとしています。政権の貿易政策に深く関わる、アドバイザーのダン・ディミコ氏。大統領は追加の関税に迷いはないといいます。
トランプ政権アドバイザー ダン・ディミコ氏
「これは脅しではありません。間違いなく実行に移すでしょう。短期的に多少傷ついても、この姿勢を維持し続けるでしょう。」
米国民も支持?“貿易戦争” トランプ大統領の狙いは
武田:アメリカはこれまで、自由貿易を世界に広めようと、各国に関税の引き下げを求めてきました。しかしトランプ大統領は、自国の産業や、みずからの支持基盤を守ることを第一に考え、自由貿易の枠組みを壊すこともいとわない姿勢です。その強気の姿勢の背景には、何があるのでしょうか。
鎌倉:その1つが、実は好調なアメリカ経済なんです。株価は貿易戦争が激化したあとも、むしろ値上がりしていて、再び最高値に迫っているんです。失業率も17年ぶりの水準に低下しています。主な要因は、トランプ政権による大型減税などで、個人消費が拡大していることなどがあります。
武田:アメリカ国民はどう受け止めているのでしょうか?
鎌倉:貿易戦争の打撃を受けた農家などからは反発の声が上がっていますけれども、世論調査を見ますと、共和党支持者のうち80%が「トランプ政権の関税政策は長期的に見てアメリカ経済をよくする」、または「悪影響はない」と答えていて、トランプ大統領の政策を後押ししているんです。
武田:トランプ政権の強硬姿勢の背景、もう1つあります。
鎌倉:それが、中国による知的財産権の侵害です。アメリカは長年、中国によって先端技術の情報が盗まれてきたと強い不満を持ってきました。最近でも大手IT企業、アップルの先端技術の情報を持ち出して、中国に向かおうとした元社員が訴追されました。トランプ政権は、知的財産権の侵害が続けば、アメリカの好調な経済を支えている先端技術の分野で、中国に追い抜かれるのではないかと危機感を強めているわけなんです。そのため、知的財産権を侵害した分、関税を引き上げるぞと中国に対応を迫っているんです。
武田:こうした強硬な貿易政策が、アメリカにとって本当に利益をもたらすのか否か。専門家の間では評価が分かれています。
米 保守系シンクタンク スティーブン・ムーア氏
「アメリカが中国を必要とする以上に、中国にはアメリカが必要です。アメリカで売れなければ、中国は経済成長できません。トランプ大統領は勝利し、中国は譲歩を迫られるでしょう。」
米 経済研究所 メアリー・ラブリー氏
「『関税は外国の企業が払う』のではなく、実際にはアメリカの消費者や企業が負担します。関税は『オウンゴール』、私たち自身を苦しめるのです。」
トランプ発“貿易戦争” 次の標的は自動車?
自動車関税 日本への衝撃
トランプ政権は、自動車関税の引き上げに踏み切るのか。水面下でその動向を探る動きが活発化しています。
コンサルタントのゴールドスタイン氏です。日本の政府関係者や企業から依頼を受け、情報収集にあたっています。
この日、日本との交渉の窓口となるアメリカ通商代表部を訪問しました。
「面会はどうだった?」
政治経済コンサルタント ポール・ゴールドスタイン氏
「今は話せない。状況は日々刻々と変わってきている。」
ゴールドスタイン氏は、日本の政府関係者に入手した情報をメールで報告。交渉では日本側にも一定の譲歩が求められるとしたうえで、アメリカは日本に対し、真正面からアプローチしてくるだろうと指摘しました。
政治経済コンサルタント ポール・ゴールドスタイン氏
「トランプ政権下の今は、予測不能の時代。彼は従来の政治家と全く違う。政府や民間企業からしたら、意味不明だと思う。日米間の交渉は、非常にタフになるだろう。」
アメリカによる関税引き上げの検討は、日本の自動車メーカーに衝撃を与えました。
トヨタ自動車 吉田守孝副社長
「さすがに関税が全部かかってしまった場合には、原価がアップすることに対してトヨタのほうで賄うことはできない。」
実際の影響は、どの程度のものなのか?大和総研エコノミストの小林俊介さんは、自動車メーカーや関連する産業への影響を試算しました。それによると、日本から輸出する自動車の関税が20%に引き上げられた場合、自動車や部品にかかる関税の増加額はおよそ9,500億円。さらに、長期的には生産台数の減少などが見込まれることから、関連する鉄鋼、運輸、化学製品などの産業でも収益が悪化し、その規模は最大でおよそ2.4兆円に上ると見ています。
大和総研エコノミスト 小林俊介さん
「日本の自動車産業全体の利益に対して、数十%に値する規模感になる。(関税引き上げが)回避できなかった場合の打撃は、極めて大きなものになる。」
自動車関税 “予測がつかない”
経営戦略の見直しを始めている企業もあります。番組の冒頭でトランプ大統領のツイッターを追っていた、住友理工です。売り上げはおよそ4,600億円。エンジンなどの振動を吸収する防振ゴムでは、世界シェアトップです。この企業では、社内にアメリカの通商政策への対応を検討するチームを設置。
「200万台くらいがアメリカ向け輸出。」
自動車関税が引き上げられると経営にどう影響するのか、分析を続けています。
米国政権通商政策対策チーム 久保雅啓さん
「詳細を洗い出して、どれだけの影響か社内に的確に伝える必要があるので、大変です。」
この日、経営会議が開かれ、その結果が報告されました。まず問題が指摘されたのが、中国工場です。中国の工場では、アメリカに輸出している製品が制裁措置の影響を受け、すでに10億円以上の損失のおそれが出ています。そして、さらなる懸念として示されたのが、自動車関税引き上げによる国内工場への影響です。関税が引き上げられると、自動車メーカーが国内での生産台数を抑制。そのため、自社の受注が減少し、大きな打撃を受ける可能性があると報告されました。
自動車営業担当 役員
「当然、自動車メーカーのほうでは速やかに日本の生産をアメリカに移そうということを検討していると思います。対応が遅れないよう考えていきたい。」
経営企画担当 役員
「新たに地産地消(現地生産)の推進ということで、米国内に生産拠点を設立することを検討しないといけない。」
会議では、生産拠点の移転に向け、候補地選定などの準備を進めていくことを決めました。ただ、関税引き上げの行方が不透明な中、移転を決断するタイミングについてはトランプ政権の出方を見極めることになりました。
住友理工 西村義明会長
「今、正念場を迎えつつあると思いますので、今まで進めてきた対応をしっかりと加速させていただきたい。」
日本・世界経済への影響は
鎌倉:こちらは、日本からアメリカへの輸出品に占める自動車の割合です。実に30%を占めています。自動車関税の引き上げが実施されれば、これは日本経済にも深刻な打撃は避けられません。
武田:世界経済への影響はどうでしょうか。今年(2018年)のアメリカ、中国、そして世界全体の成長率の見通しは、アメリカが2.9%、中国が6.6%、世界全体では3.9%です。
三菱総合研究所によりますと、トランプ大統領が中国に2,000億ドルの追加の関税措置を発動し、さらに各国に対して自動車関税を引き上げた場合、こうなります。
アメリカの成長率は0.8%、中国は2.2%、そして世界全体では0.6%、それぞれ押し下げられると試算しているんです。
今後の世界経済の行方、そして私たちの暮らしへの影響について、試算した研究所のチーフエコノミスト、武田洋子さんに聞きました。
保護主義の連鎖に懸念が
難しい日本企業の対応
暮らしへの影響は?
これからどうなる?
武田:トランプ政権の強硬な姿勢、2日前にも新たな動きがありました。
鎌倉:アメリカがカナダ、メキシコと結ぶNAFTA・北米自由貿易協定の再交渉でカナダと対立し、目標としていた8月中の合意に達しませんでした。トランプ大統領はツイッターに「公正な合意に達しないならば、カナダはNAFTAから出ていくことになる」と書き込んで、圧力を強めているんです。自国の利益のためならば、これまでの枠組みを壊してもかまわないという交渉姿勢が改めて浮き彫りになりました。
さらに今週中にも、中国に対する2,000億ドルの追加の関税措置を決めるのではないかともいわれています。11月の中間選挙に向けて、国内の支持基盤を固めるために、トランプ政権が今後、ますます対外的に強硬な姿勢を強めていくのではないか、そういった見方もあるわけなんです。
武田:トランプ大統領の強硬な政策は、身近な暮らしにも影響を与えかねないだけに、私たちはそれに現実的に向き合わなければならないという段階に入っています。歴史を振り返ると、「保護主義の連鎖に勝者はいない」と専門家は語っています。この貿易戦争が何をもたらすのか、懸念を抱かざるをえません。
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