米下院 オバマケア代替案採決へ 共和党保守派修正で合意 :日本経済新聞 より引用
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【ワシントン=川合智之】米下院は医療保険制度改革法(オバマケア)の代替法案を4日にも採決する。複数の米メディアが報じた。3月に予定していた採決は与党・共和党内の保守派が反対して流れたが、共和党指導部は保守派の一部議員と法案の修正で合意した。オバマケアの見直しが頓挫すれば、政権の政策実現能力に大きな疑問符がつく。まだ党内には反対派も残っている。
「明日採決する。(可決に)必要な票数を得た」。マッカーシー下院議員(共和)は3日、記者団にこう語り、過半数票の確保に自信を見せた。
「我が国は良い(政府機関)閉鎖が必要だ」。トランプ大統領は2日、ツイッターでこうつぶやいた。予算案やオバマケア代替法案などの重要法案が議会を通らないことに不満を強め、新会計年度から政府機関を閉鎖させて議会の責任を問うショック療法を提案した。
ただ下院は3日の本会議で、2017会計年度(16年10月~17年9月)予算案を可決した。与野党が政府機関閉鎖の回避で折り合った。上院でも可決・成立すれば政府機関閉鎖は避けられる。
残る課題はオバマケア代替法案を巡る与党内の分裂だ。3月の代替法案ではオバマケア撤廃が不十分だとして、強硬派の保守議員団「フリーダム・コーカス」が反対し、採決を取り下げた。調整能力を問われた共和指導部は、同議員団と交渉して法案を修正。議員団は修正法案を「支持する用意がある」と表明した。
まだ一部の議員は難色を示し、米メディアによると約20人の共和議員が法案に反対する見通し。態度未定の議員も30人以上おり、このうち数人が反対に回れば法案は否決される。イスラム圏などからの入国禁止令に続き、オバマケア見直しも頓挫すれば支持率の低下は必至。減税やインフラ投資など他の政策にも影響が波及しかねない。
オバマケアは2千万人以上の無保険者が保険に加入したオバマ前政権の看板政策。共和党は政府支出が増えたことなどを理由に撤廃を主張している。オバマケアは既往症を持つ人も保険に加入できることなどから、制度維持を求める共和党員も多い。
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オバマケアは議会より身内の強硬路線を求める共和党の議員にによって反対されたという過去があるが、今回は歩み寄った形である。
オバマケアは日本の国民健康保険を見習った感じで出てきているので、我が国の情況の把握から見ていくことが重要になるのだが、この点、大阪大学大学院言語文化研究科教授の杉田米行教授の主張がわかりやすい。
国民健康保険は慢性的な赤字! 国民皆保険制度のメリットばかり見てはいないか?|健康・医療情報でQOLを高める~ヘルスプレス/HEALTH PRESS より引用
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世界に冠たる日本の国民皆保険。いつでも、どこでも、誰でも、比較的低料金で医療サービスを受けることができ、そのおかげで、日本人の平均寿命は飛躍的に伸びている。また、日本はOECD(経済協力開発機構)諸国の中でも国民医療費が低く抑えられ、まさに世界の見本になるようなすばらしい医療制度である――。そのように、よく言われている。
確かにこのような側面があり、それは非常によい面だと言える。しかし、このよい面とぴったり対になっている裏面を、日本人はなぜ見ないとしないのだろうか?
このような「よい面」を実施するためには、非常に強力な中央集権体制が必要であり、「よい面」が進展すればするほど、必然的に国家の権力が肥大化していくのである。
具体的に平成27年度予算と医療費を材料にして考えてみよう。
閣議決定された平成27年度予算を見ると、一般会計歳出は96兆円。その約3分の1にあたる32兆円弱が「社会保障関係」に当てられている。さらにその社会保障関係費の約3割にあたる9兆円強が「医療費」の歳出となっている。
国民健康保険は慢性的赤字体制に悩んでいる。この赤字を削減させるため、厚生労働省は平成30年4月に、国民健康保険の運営母体を現在の市町村から都道府県に移す予定である。規模を大きくすることによって、国民健康保険の財政基盤をよりよいものにすることが目的である。
また、財政支援のために、政府は平成27年度、国民健康保険に1700億円の国庫支援をする予定である。これほどの国庫支援をする説得的な理由があるのか否か、議論が必要だろうが、ここまではまだ許容範囲かもしれない。
「社会全体で高齢者を支えよう」という美名のもとの欺瞞
しかし、政府が恣意的に、しかも一方的に、健康保険組合や共済組合の「後期高齢者医療制度への支援金」を増やすのは、一線を超えた行為だと言えよう。
加入者の平均収入が高い(したがって収入に比例する掛け金が高い)という理由だけで、「社会全体で高齢者を支えよう」という美名のもと、私有財産が収奪されるのである。もちろん、健康保険組合や共済組合の同意なく、厚生労働省が一方的に、強制的に、没収するのだ。
75歳以上の高齢者が加入する医療保険制度が「後期高齢者医療制度」である。この制度を運営するにあたって、健康保険組合や共済組合が「後期高齢者支援金」として拠出することになっているが、それが全体の約4割を占めている。
共済組合は、同じ職種に属しているという共通認識をもった人が集まって形成されている。そのグループの社会保障や福利厚生を少しでも充実したものにし、いざというときに同じグループに属する仲間がまとまったお金を使えるようにするため、グループ内で掛金をプールしているのである。
共済組合とは、「組合員の、組合員による、組合員のための互助組織」というのが基本原則である。共通の利害を有するからこそ助け合いができるのだ。
後期高齢者支援金は、この基本原則を破るものであり、しかも国家が強制的にそのようにするのである。「世界に冠たる日本の国民皆保険」には、このように、国家権力の肥大化という負の側面がつきまとうのである。自由を選ぶのか、強制力による安定を選ぶのか?
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杉田教授はオバマケアについては以下の記事に書いている。
オバマケアを斬る なぜアメリカには国民皆保険制度がなかったのか?|健康・医療情報でQOLを高める~ヘルスプレス/HEALTH PRESS より引用
2010年3月、「患者保護と妥当な医療に関する法律」、通称「オバマケア法」が発効された。アメリカで初めて、国民皆保険にかなり近づく画期的な法律だと言われている。
今回から何回かにわたって、オバマケアをさまざまな側面から分析し、日本の医療制度が学ぶべき点や学んではいけない点を検討してみたい。第1回目は、アメリカの無保険者のこと、および日本のような国民皆保険が導入し難い理由を検証する。
2億5000万人もの人が自発的に医療保険に加入している
アメリカには医療において、国民皆保険制度はない。5000万人程度(人口の約16%)が無保険者だと言われている。世界トップクラスの医療費を使いながら、これほど多くの無保険者がいる国として、否定的に見られることが多い。
しかし、視点を変えれば、肯定的な評価もできる。アメリカは、国民皆保険制度、つまり、国家による強制がないにもかかわらず、2億5000万人程度(人口の約84%)が何らかの医療保険を持っている国なのである。5000万人の無保険者を強調するのか、2億5000万人もの人が自発的に医療保険を持っていることを強調するのか、それによってアメリカの医療制度の評価も異なってくる。
この問題を検証するにあたって、大きな疑問が2つ挙げられる。
①なぜ2億5000万人もの人が自発的に医療保険に加入しているのか。
②なぜ、強制的に5000万人の無保険者問題を解消する、日本のような国民皆保険制度が導入できないのか。
実は①と②は密接に関連した問題であり、①の答えが、日本のような国民皆保険の導入を難しくしているのである。
アメリカには、公的医療保険として、65歳以上の高齢者と全永久就業不能者・末期腎不全者等を対象としたメディケアがあり、2010年末では約4750万人が加入している。また、低所得者に対する公的医療保険としてのメディケアがあり、2014年の会計年度において約6400万人の加入者があった。さらに、これらのメディケイドに加入するほど低所得ではないが、民間医療保険を購入できるほどの余裕もない家庭の、19歳以下の医療保険を持たない子供に対する公的医療保険として、州子供医療保険プログラムがあり、2008年の資料では360万人程度の子供が加入していた。
上記以外は、基本的にすべて民間医療保険を利用している。アメリカで最も多い形態は、職場を通じて医療保障を受けることだ。アメリカでは医療費、医療保険料が高額なので、勤務先を通さず、個人が直接、保険会社と契約を結ぶことは少ない。したがって、「雇用―安定収入―医療保険」がセットになっているのである。
しかも、日本のように、雇用主と従業員が保険料を折半することが決まっているわけではない。雇用主が全額負担する場合もあれば、雇用主:従業員=8:2や7:3といった割合が多い。1:1や従業員のほうが高い掛金比率というのはまれである。
第二次世界大戦期に職場を通じた医療保障が拡散
このような職場を通じた医療保障は、第二次世界大戦の産物である。当時のローズヴェルト政権がインフレ抑制のために賃金凍結を行った見返りに、従業員への福利厚生の一環として、雇用主が職場医療保険を従業員に付与するようになったのである。これ以降、職場を通じた医療保障がアメリカでは一般的になった。
このようにして、政府が公的医療保障を全国民に与えようとする前に、職場を通じた医療保障が一般的になっていった。すると、すでに医療保険を持っている中間層は、低所得者に医療保障を与えるために、税金や社会保険料を支払って新たに公的医療保険制度を作るインセンティブが無く、国民皆保険制度には反対の立場だった。どうして、新たな税金や社会保険料を支払って、現在享受している医療保障よりも恐らく質的に悪くなる公的医療保険を作る必要があるのだろうか。
換言すれば、第二次世界大戦期に職場を通じた医療保障が拡散していったことが、全国民を対象とした公的医療保険制度ができなかった大きな理由である。さらに、国民の心情として、政府の介入を社会主義的だと嫌悪したこと、アメリカ医師会や保険業界等の強力な利益団体が反対したことなどの理由が重なり合って、国民皆保険制度はできなかったのである。
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なるほどこのような説明を得て、はじめて亨進様の説教の意味が、日米の事情の違いからよく理解できたように思う。
次に日本がアメリカに学ぶべきこととして以下の記事がある。
「選択」と「競争」の視点から考える――日本がアメリカの医療保険制度から学ぶことはあるのか?|健康・医療情報でQOLを高める~ヘルスプレス/HEALTH PRESS より引用
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オバマ政権下の医療保険改革は、公正さを実現するための実験である。そして、公正さに欠ける日本の医療保険制度は、アメリカの医療保険改革から多くのことを学ぶ必要がある。なお「公正さ」とは、「競争と選択の提供により国民の自由を保証すること」と定義づける。
アメリカの医療保険制度にも勝るのが世界に冠たる日本の国民皆保険で、「人類の常識」が通用しないのがアメリカの保守派であり、「日本の皆保険はすばらしい」という論調がある。
いつでも、どこでも、誰でも、比較的低料金で医療サービスを受けることができ、そのおかげで日本人の平均寿命は飛躍的に伸びている。日本は経済協力開発機構(OECD)諸国の中でも国民医療費が低く抑えられ、まさに世界の見本になるようなすばらしい医療制度である――。
確かに、このような側面は、非常に良い面だと言える。しかし、この「良い面」と対になっている「裏面」を、なぜ日本人は見ようとしないのだろうか? この「良い面」を実施するためには、非常に強力な中央集権体制が必要であり、「良い面」が進展すればするほど、必然的に国家の権力が肥大化していくのだ。そして国家権力の肥大化によって、公正さが押しつぶされる可能性も大きくなる。
「パブリック・オプション」をめぐる議論が意味するもの
オバマケアで最終的には採用されなかったが、大きな話題になったのが「パブリック・オプション」である。
これは連邦政府が保険者となる医療保険プログラムで、当初、民間医療保険プログラムとともに、主に無保険者を対象に提供されることになっていた。日本は公的医療保険による国民皆保険だが、アメリカにはメディケアなど、限定的にしか公的医療保険がなく、皆保険に公的医療保険を加えるか否かは、その改革の性質を見極める上で重要である。オバマも当初は、パブリック・オプションの導入を進めていた。
しかし、共和党を中心とした保守派は、オバマの医療制度改革が自由(国家権力からの自由)、平等(機会の平等)、民主主義という米建国の基礎となった理念から逸脱している点を批判した。
これに対してオバマ大統領は、「基本理念は選択と競争により消費者はより良いサービスを受けられることである」と主張する。
オバマにとってパブリック・オプションは、民間医療保険業界が寡占状態で暴利をむさぼることなく、選択と競争を提供するという目的を達成するための手段に過ぎないものであり、選択と競争が確保される状況であれば、パブリック・オプションの導入そのものにはこだわらなかった。
最終的にオバマ大統領は、パブリック・オプションを法案に含めないことに同意した。オバマ大統領も選択と競争こそ重要視した価値観なのである。そういう意味において、オバマと共和党員を中心とした保守派との間には、公正さを担保するという点では共通点があると言っても過言ではない。
ひるがえって、世界に冠たる日本の皆保険を考えると、職業や住む地域によって国家から一つの医療保険を強制的に付与されており、国民には医療保険を選択する余地はなく、各保険者は互いに競争することもない。診療報酬、薬価、治療方法まで、すべて中央で決められる社会主義的医療保険である。
このように選択と競争を視野に入れない日本と比較すれば、オバマケアの方が公正さという点では勝っているのではなかろうか。アメリカの医療制度改革は、医療における競争と選択の重要性に関して検討する機会を提供している。
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オバマも選択と競争を重視していた側面があるというのは、意外であったが、自由の国アメリカらしい話である。
オバマケアで財政赤字の削減はウソだった!? 連邦最高裁判所が医療保険の補助金を合法とした意義とは?|健康・医療情報でQOLを高める~ヘルスプレス/HEALTH PRESS より引用
2015年6月、アメリカ連邦最高裁判所は、オバマ大統領がすすめる医療保険制度改革(オバマケア)の重要な柱である政府補助金が合法であるという判決を下した。
国民の15%以上が医療保険を持っていなかったアメリカでは、2010年3月、すべてのアメリカ国民が医療保険に加入することを促進する「患者保護および医療費負担適正化法(Affordable Care Act)」、通称「オバマケア」が可決成立し、2014年1月からスタートした。
この法律では、連邦政府が定めた基準を満たした民間医療保険を、国民がオンライン上に設置された保険取引所で購入することになっている。そして、低所得者がこの保険取引所で医療保険を購入する際、連邦政府は補助金を提供することになっていた。
しかし、アメリカは連邦制による国家であるため、州の権限が非常に強い。共和党を中心としたオバマケア反対派が知事の州は、オバマケアで定められた医療保険が購入できる保険取引所の設置を拒否したのである。
そこで連邦政府は、そのような州の市民が医療保険を購入できるよう、連邦政府が保険取引所を設置した。一方、オバマケア反対派は、医療保険の購入で政府から補助金を受け取れるのは、各州が設置した保険取引所(オンライン)を利用した人に限定すべきだと主張。連邦政府が設置した保険取引所(オンライン)での医療保険の購入した人は法律違反だと訴えた。6月に下された連邦最高裁判所の判決は、この是非をめぐる争いだった。
実は、この問題は、2014年7月、2つの控訴裁判所で真逆の判決が下されたため、最高裁に持ち込まれていた。補助金は、低中所得者層の保険加入に大きな役割を果たしている。もし非合法の判決が下されていれば、600万人以上が補助金を失い、オバマケアそのものに大きな打撃を与えていたことだろう。
低所得者層に補助金をばらまいて強制的に民間保険を購入させている
今回の判決はどのような意義があるのだろうか。
オバマケアでは慢性疾患が保障の範囲に入り、既往症を持った人も保険に加入できるようになったので、医療費の支払いリスクが高まった。そのため、これまで職場を通じて比較的安い保険料で充実した医療保険を享受してきた人の保険料が引き上げられ、薬代の自己負担額も高くなるケースが増えた。他方、保険会社は、数千万人の新規顧客が増えた上に、政府の補助金によって取りこぼしがなくなった。
これまで医療保険を購入できなかった低所得者層は、補助金を受け取ることで医療保険に加入できるようになり、それは一見すばらしいことのように見える。
しかし、本当にそうだろうか。保険会社が指定する医療機関が近くになく、医療サービスを受ける機会が少ないという地域もある。それ以上に深刻な問題は、政府が補助金をばらまいて強制的に低所得者層に民間保険を購入させている事である。補助金はやがて既得権益となり、法で守られた国民の権利としてさらに多くの補助金を要求するようになり、自律した市民になる気概を失っていくのである。
加えて、医療保険者が増えるに従い、補助金支出による財政負担も大きくなる。2019年までに93兆円もの支出になるといわれている。議会予算局の試算では、医療関係業界への課税や医療費抑制等により、最終的には10兆円以上の財政赤字削減につながると予測をたてているが、楽観的すぎるという批判もある。実際、2015会計年度上半期(2014年10月〜2015年3月)の財政赤字は、前年同時期と比較して6.3%上昇しており、2014年1月から本格的に実施されたオバマケアの影響が大きいと言われている。
オバマケアは、数千万の無保険者を医療保険に加入させるという、極めて重要なことを実現した。このようなすばらしい業績の裏には、必ず負の側面が付随している。それは、国家の多大な介入により国民が次第に政府に依存しすぎる傾向になることと、財政赤字が膨れ上がる可能性を秘めている点である。オバマケアのプラスの面とマイナスの面のバランスをどのようにとっていくかが、今後のアメリカの課題といえよう。
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日本の保険制度の問題点を先に指摘した文章を読んできたので、大変わかりやすかったと思う。
トランプ大統領も、真の国民主権を訴えてきた。これと引き換えに安易な行動は慎まなければならないということであろう。
トランプ政権の誕生で「オバマケア」の運命は?〜アメリカ民主主義が生み出した大きな賭け|健康・医療情報でQOLを高める~ヘルスプレス/HEALTH PRESS より引用
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トランプ政権の誕生で「オバマケア」の運命は?(JStone / Shutterstock, Inc.)
アメリカでは21世紀に入っても国民の15%以上(約5000万人)が医療保険を持っていなかった。無保険者問題と同時に深刻なのが、毎年伸び続ける医療費だった。2009年の医療費は約2.5兆ドルで対名目国内総生産比17.6%に至っており、世界で最も多くの医療費を使っている。
この状況に対処するために、2010年3月にすべての国民が医療保険に加入することを促進する「患者保護および医療費負担適正化法(Affordable Care Act)」が成立し、2014年1月から実際に運用され始めた。
アメリカには日本のように国民全員が公的な健康保険制度に加入義務がある「国民皆保険制度」はなく、民間医療保険、特に雇用主が被用者やその扶養家族、退職者に提供する「雇用主提供医療保険」が主流である。
オバマケアで月平均272ドルの補助金が支給
「患者保護と妥当な医療に関する法律」の主な内容な以下である。
①国民に保険加入を義務付ける
②保険会社は既往症など健康状態を理由に保険加入拒否できない
③従業員50名以上の企業は従業員の保険を購入する義務が生じる
④違反した国民や企業には罰金が課される
⑤一定所得以下の人が保険を購入する際には政府が補助金を提供する
議会予算局の推計によれば、無保険者は2019年度の時点で、今回の改革を行わなければ5400万人に増え、改革を行えば2300 万人に削減されるということだ。
その中でも特に重要な項目は、「①国民に保険加入を義務付ける」ことと、「⑤一定所得以下の人が保険を購入する際には政府が補助金を提供する」ことだった。
どちらも憲法違反だとして連邦政府が訴えられたが、2012年6月に連邦最高裁判所は国民に保険加入を義務付け、違反者に罰金を科すことを合憲という判断を下した。また、国民に対する補助金の支給に関しても、2015年6月、連邦最高裁判所は合憲との判断を示した。その結果、現在、月平均272ドルの補助金が支給されているという。
オバマケアの「負」の側面
オバマケア実施後、約2000万人が新たに医療保険に加入できたと言われている。また、低所得層には保険料に対する政府からの補助金があるために、医療保険取引所で医療保険を購入する人の80%は月100ドルより少ない額で医療保険に加入できると言われている。
確かにオバマケアは多くの無保険者を医療保険に加入させたが、このようなすばらしい業績の裏には、必ず負の側面が付随している。それは、国家が介入することにより国民が次第に政府に依存しすぎる傾向になることと、長期的には財政赤字が膨れ上がる可能性を秘めている点である。
議会予算局の推計によると、今回の改革を行うために2010~2019年度に必要な支出は9380 億ドルで、医療費関連の支出削減、ペナルティ、課税等による収入が1 兆620 億ドル、つまり財政収支は10年間で1240 億ドル改善されると推計している。
しかし、これは楽観的すぎるという批判もある。短期的には影響が小さくても、長期的には財政赤字の増大につながると懸念しているのだ。2016会計年度の財政赤字は前年度比34%増の5874億ドルで、2011年度以来5年振りの財政赤字増加となったが、これはオバマケアによる社会保障費増加の影響が大きいとされている。
オバマケア廃止は民主党の「フィリバスター」で否決?
ドナルド・トランプ大統領はオバマケアを廃止すると言っている。しかし、上院には上院規則19条で、「いかなる上院議員も、他の議員の討論を、その議員の同 意無しには中断させることができない」という規程がある。さらに、上院の法案審議は会期を越えて行うことができないので、民主党上院議員が延々と討論を続け、会期末まで審議を引き延ばせば、共和党提出の法案を廃案にできる。
これがいわゆる「フィリバスター」と呼ばれるものだ。これは200年以上もの伝統がある規程である。しかし、フィリバスターを全面的に認めてしまえば上院が機能しなくなることもあり、現在では、上院議員の5分の3以上(60議席以上)の支持があれば、議員の発言時間を制限することが可能になっている。
現在の上院における勢力図は、民主党46議席、共和党52席、独立派2議席。共和党がオバマケア廃止の法案を提出しても民主党員が結束すれば、フィリバスターによって廃案にできる。
しかし、保険料への政府補助金、個人加入義務化、従業員に対する雇用者保険提供義務など予算にかかわる部分に関して、共和党は単純過半数で採決可能な財政調整を駆使してオバマケアを骨抜きにすることができる。現在のように政府から補助金を提供するのではなく、税控除という形に変えることも考えられる。
ただし、この手法を使うと、中間層以上の人が得をするが、現在、補助金を得ている低所得者層に恩恵が行きわたらないとも言われている。また、ホワイトハウスは大統領令を発令することでオバマケアを骨抜きにすることも計画していると伝えられている。
オバマケアを全面的に停止すれば財政赤字額が今後75年間で6.2兆ドルに増加
トランプ政権はオバマケアに変わる具体策に乏しく、綿密な計画が立てられているとは考えにくい。オバマケアを批判し、さまざまな手法で骨抜きにすることができても、代替案を出すことができない可能性もあり、そうなれば医療保険制度をめぐって大きな混乱が起きることも予想される。
すでに数千万人の既得権益者ができており、その中にはトランプを支持した低所得者層も多い。その人たちへの補助金が削減されても、それを上回るだけの所得上昇や雇用の創出ができれば、トランプ政権への支持は続くだろう。
しかし、そのようにうまく経済がまわるとは限らない。補助金が削減され、経済も停滞すれば、現在のトランプ支持層の不満が一気に高まることも考えられる。仮にオバマケアを全面的に停止してしまえば、財政赤字額が今後75年間で6.2兆ドルも増加するというアメリカ会計検査院の試算も出されている。
政治手腕が未知数のトランプ大統領が、この難問にどのように対処できるのか。アメリカ民主主義が生み出した大きな賭けと言える。
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杉田教授の説明によって、オバマケアの経緯やメリットとデメリットなどが理解されることになったと思う。
さて、トランプ大統領はどのような代替案を出せるのだろうか?
期待したい。
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