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パウエルFRBの強靭な布陣

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トランプ大統領は先ず雇用の拡大に力を入れ、次に貿易赤字の解消に努め、

今回は金融政策にもテコ入れをしてアメリカの経済の好調を短期に終わらせないよう

舵取りをしている。

 

鈴木 敏之氏は以下のレポートを出している。

そこには幾つものグラフが出てくるが、文章のみを引用した。

是非、引用元のサイトにも依っていただきたい。

動画を見てポイントを得てから、下の文章を見ると、素人でも役立つところがある。

 

 

http://www.bk.mufg.jp/report/bfrw2018/weekly1804200.pdf より引用

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パウエル FRB の強力な布陣 ~高まるテーラー教授の存在感~

4 月 16 日にトランプ米大統領が、FRB副議長にコロンビア大のク ラリダ(Richard H Clarida)教授、空席の理事のひとりにカンザス州 法銀行監督局のボウマン(Michelle W Bowman)監督官を指名した。 6 月 18 日にFOMCの副議長となるニューヨーク連銀の総裁に、サン フランシスコ連銀のウィリアムズ(John C Williams)総裁が就くこ とが既に発表されている。FRB理事に指名されていながら、グッド フレンド(Marvin S Goodfriend)教授を上院は承認していない。クラ リダ、ボウマンの上院の理事承認が円滑に行われるかは定かではな いが、パウエル(Jerome H Powell)FRB議長のもとでの新体制の骨 格はみえたことになる。そこで注目されるのは、テーラー教授(John B Taylor)の存在感である。この布陣から見える米国経済、金融政策 の行方の展望を試みたい。

① 強力な布陣 パウエル議長は弁護士出身で、エコノミストばかりであった近年 のFRB議長としては異色の存在である。そこで、フィッシャー (Stanley Fischer)副議長の後任となる金融政策を所管する副議長の 指名が待たれていた。4 月 16 日にトランプ大統領が副議長に指名し たのは、大手運用会社のグローバル戦略アドバイザーとして一般の 市場参加者にもよく知られている、コロンビア大のクラリダ教授で ある。FRB副議長としてクラリダ教授、ブレイナード(Lael S Brainard) 理事、グットフレンド教授(理事に指名されているが、上院未承認)、 ニューヨーク連銀総裁としてウィリアムズ総裁という、エコノミス トチームは強力な布陣という印象を与える。 クラリダ教授は、マクロ動学均衡分析を駆使しての金融政策分野 の経済学研究では重鎮である。テーラールールは、テーラー教授が 嚆矢を放ったが、それをここまで広く参照されるように、その有用 性を示したという意味では、クラリダ教授の貢献が大きい。為替相 場の決定と金融政策を結びつける分野でも学術的貢献がある。今日 の金融政策の根幹といえる、インフレ抑制の実績を築くメカニズム の根幹といえるテーラー・プリンシプルを見出す研究に携わったひ とりである。学界で華々しい成果をあげ、財務相次官補として実務 でも貢献し、さらに民間の運用会社で投資戦略を練ることでも存在 感を示している。 ウィリアムズ総裁も、マクロ動学均衡分析をもとに、様々な調査 論文を猛烈な勢いで仕上げてきた。その調査分析の範囲は極めて広 い。そのひとつでしかないが、自然利子率を実際の数字として計算 し提示していることが、最近では、広い注目を集めている。この数 字をもとに、金融政策が設定されているといっても過言ではないほ

今週のトピックス | 平成 30(2018)年 4 月 20 日 どである。そして、イエレン前FRB議長を継いで、サンフランシス コ連銀総裁の重責を果たし、その実績もあってニューヨーク連銀総 裁の職を射止めている。 クラリダ=ブレイナード=グッドフレンド=ウィリアムズは、現在 可能な人選としては、エコノミストチームとしては最強の布陣と いってよい。規制監督分野では、パウエル議長、クオールズ副議長 のコンビは、やはり最強といえよう。パウエル議長は、これ以上な い人員配置をなしとげようとしている。

② 注目されるテーラー教授とのかかわり ここでもうひとつ注目されるのは、ここで指名された人々とテー ラールール(第 1 図)で有名なテーラー教授(John B. Taylor)との かかわりである。あたかも、テーラー教授のFRBに見えてしまうほ どである。 当初のテーラールール r = 2 + π + 0.5 × (π - 2) + 0.5 × y r … FF 金利、π … インフレ率、y … 産出ギャップ 第 1 図: テーラールールで示される FF 金利と実際の FF 金利の推移 (資料)FRBアトランタ連銀のデータより三菱 UFJ 銀行グローバルマーケットリサーチ作成 クラリダ教授が学界に鮮烈な印象を与えたのは、物価安定を確保 して長年の経済繁栄を支えたドイツ連銀が、テーラールールにもと づいて金融政策をとっていたことを示したことである。また、金融 政策ルールについての学会で、テーラー教授が行った報告でコメン トを行う栄誉を担ったのもクラリダ教授である。そして、ブッシュ (43 代、子)政権下、9.11 による最も困難な局面において、財務省 で、テーラー教授は財務次官、クラリダ教授は財務次官補としてと もに対処にあたっている。 また、ウィリアムズ総裁にスタンフォード大学で博士号を授与し たのは、テーラー教授である。テーラールールは 1 本の単純な数式 であるが、その重要な変数が自然利子率である。テーラー教授のテーラールールに関する最初の論文で自然利子率は“2%”とされたが、そ の 2%を固定することには疑問が持たれていた。それでは何%とすべ きか。それを学術的に検討し、さらに実際の数字を示してきた(第 2 図)のが、ウィリアムズ総裁である。最初のテーラールールのも うひとつの 2 である目標インフレ率について、物価水準ターゲット の分析から、2 に固定しないことの有用性も説いている。テーラー ルールを発展させる学術研究の先頭を走っているといってよい。 第 2 図: 自然利子率の推移 (資料)サンフランシスコ連銀のデータより三菱 UFJ 銀行グローバルマーケットリサーチ作成 そのウィリアムズ総裁が計算にあたっている自然利子率の差が為 替相場変動に与える影響(第 3 図)を重視する研究を、クラリダ教 授が最近まとめている。 第 3 図:米欧自然利子率金利差とユーロドルの為替相場 (資料)サンフランシスコ連銀、Bloomberg のデータより三菱 UFJ 銀行グローバルマーケットリサーチ作成 理事に指名されているグッドフレンド教授は、テーラー教授が示 した金融政策の進め方の文書を支持している。また、クオールズ副 議長は、金融政策ルールによる金融政策の支持者である。さらに、 パウエル議長も金融政策ルールに理解があることを、テーラー教授 が、自身のブログで語っている。 -1.0 -0.5 0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0 3.5 93/06 95/06 97/06 99/06 01/06 03/06 05/06 07/06 09/06 11/06 13/06 15/06 17/06 自然利子率(1サイド) 自然利子率(2サイド) (%) (年/月) -2.0 -1.5 -1.0 -0.5 0.0 0.5 0.7 0.8 0.9 1.0 1.1 1.2 1.3 1.4 1.5 1.6 1.7 99/03 01/03 03/03 05/03 07/03 09/03 11/03 13/03 15/03 17/03 (ユーロ/ドル) (%) (年/月) ユーロドル相場 〈左目盛〉 自然利子率の米欧金利差(欧州-米国) 〈右目盛〉 クラリダ教授は、ウィリ アムズ総裁の自然利子 率をもとに為替相場変 動についての研究論文 を発表 5 今週のトピックス | 平成 30(2018)年 4 月 20 日 テーラー教授は財政収支の悪化、債務の拡大を問題視する立場、 財政ホークであるので、自身は、トランプ大統領の指名を要するFRB の職には就けないとみられる。しかし、金融政策を方向づける重要 ポストに、テーラー教授の教え子、かつての財務省の同僚が配され ていることになる。 仮に、テーラー教授の影響が強まるとすると、金融政策は、その 任務として持続可能な雇用の最大化を再考することになるかも知れ ない。また、Fedは、金融政策ルールを示し、それから逸脱する金融 政策をとる場合の説明を求められることになるなどの変革がなされ える。

③ 潜在成長率、自然利子率を高めることがアジェンダ グリーンスパン元議長の時代、彼は経済大統領であった。経済の 困難は、グリーンスパンが政策を発動すれば雲散霧消するという思 いがあった。グローバル金融危機は、バーナンキ元議長による果敢 な対応が短期間での危機克服を可能にした。金融政策が積極的、適 切に運営されていれば、経済はうまくまわるというのが暗黙の共通 認識になっていた。 しかし、イエレン前議長は 3%の経済成長は見込めないという答弁 を 2017 年 7 月の議会証言で行った。この主張は受け入れられない。 適切な経済政策をとれば、より高い経済成長率を実現できるはずだ。 これが、共和党の経済政策立案の中枢の人々の発想だ。パウエル議 長は、この認識を受け入れつつ、その実現の政策手段はFedに与えら れていないという立場だ。 直接発動できる手段はFedにはないにしても、潜在成長率、自然利 子率を高めることがアジェンダといえる。テーラー教授も、税制改 革、規制緩和を通じて経済成長率は高められる、3%成長は可能であ るという立場である。 今すぐではないが、やがては、潜在成長率の上昇による「良い」 金利上昇は視野に入れるときが来るかもしれない。

④ 金融政策の行方 クラリダ教授が副議長に就任すれば、弁護士出身のパウエル議長 の補佐というよりも、実際は、チーフエコノミスト役としてクラリ ダ教授が金融政策を方向づける存在となろう。大手運用会社のグ ローバル戦略アドバイザーとしてのコメントをみると、当座の利上 げに抵抗は持っていない。クラリダ教授は、自身の金融政策ルール を示しているが、それにFOMCの経済見通しのインフレ率、失業率 で先行きを計算すると、当座はFOMCメンバーのみるFF金利見通し にほぼ合致している。しかし、2020 年になると、今のFOMCメンバー のみるFF金利よりも低くてよい計算になる(第 4 図)。

パウエル議長の関心は、 潜在成長率を高めるこ と。ただし、金融政策に、 そのための手段はない ということも強調して いる。 クラリダ教授は、当面の 利上げは抵抗しないだ ろう 6 今週のトピックス | 平成 30(2018)年 4 月 20 日 第 3 図: クラリダ教授の金融政策ルール (資料)米労働省FRB のデータより三菱 UFJ 銀行グローバルマーケットリサーチ作成 6 月 13 日に、FOMCは 0.25%の利上げを決定するだろう。その後 も段階的に利上げを続ける方針を保持するだろう。やがて陣容が 整って、その後の金融政策の進め方が議論されることになろうが、 クラリダ教授のこの金融政策ルールと、ニューヨーク連銀総裁に なっているウィリアムズ総裁が物価水準ターゲットの金融政策を主 張することを見込むと、今のFOMCメンバーの見通しより、将来の FF金利のパスは引き下げられる可能性が浮上してくる。

結び パウエル議長が、クラリダ=ブレイナード=グッドフレンド=ウィ リアムズというエコノミストチームを選択したことは、大きな安堵 である。金融政策についてのマクロ経済分析の分野では、実績のあ る著名人ばかりである。見込みのたてられないほどのこれまでとの 不連続はなさそうだからである。 シニアマーケットエコノミスト 鈴木 敏之

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