エルサレムの首都認定は、中東問題の専門家である高橋和夫氏もキリスト教徒を意識したものであると語っていたが、その実際的な内容についてはあまり知ることができる記事がなかった。
だが、NHKの以下の記事はその辺の事情についてわれわれに新しい視点を与えてくれるものであった。
エルサレム首都認定 背景にキリスト教福音派が | 国際報道2017 [特集] | NHK BS1
より引用
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増井
「20日、パレスチナ暫定自治区では抗議デモが行われ、イスラエル軍との衝突で100人余りがけがをしました。
22日には、イスラム教の金曜日の集団礼拝に合わせて再び抗議デモが呼びかけられ、衝突がさらに続くことも懸念されています。」
花澤
「こうした大きな反発も予想された中で行われたトランプ大統領の決断。
その背景の1つには、国内のキリスト教福音派の支持をつなぎとめたいというねらいがあったとみられています。」
松岡
「アメリカのキリスト教福音派は、聖書の言葉を厳格に守ることを教えの柱としています。
イスラエルに関する記述では、その聖書には次のように書かれています。
“主はアブラムと契約を結び、こう言った。『この地をあなたの子孫に与える』”。
福音派はこの記述を“神がイスラエルの地を、アブラムの子孫、つまりユダヤ人に与えた”と解釈。
さらに聖書に“主の足は、エルサレム東のオリーブ山の上に立つ”との記述もあり、復活したキリストが、エルサレムに現れると考えています。
ワシントンにある、キリスト教福音派が通う教会です。
日曜の礼拝の参加者からは、トランプ大統領の発言を支持する声が相次ぎました。
「トランプ大統領が公約を守り、決断したことにとても感謝してます。」
「承認するかどうかはアメリカが決めることです。
本当はとっくの昔にやるべきだったんです。」
アメリカ国民のおよそ3割を占める「福音派」。
大統領選挙で、トランプ氏が勝利した背景の1つには福音派の支持をとりつけたことがあるとの見方もあります。
福音派は、政権内にも影響力を広げています。
ペンス副大統領も敬けんな福音派で、エルサレムを首都と認めるべきだと主張したといわれています。
リポート:澤畑剛支局長(エルサレム支局)
争点となっている聖地エルサレム。
アメリカの福音派の中でも一部の強硬なグループが、イスラエルとの結びつきを深めています。
澤畑剛支局長(エルサレム支局)
「福音派は、ここエルサレムにも事務所を構えています。」
アメリカの福音派を中心とするこの団体は、エルサレムはイスラエルの首都だと主張するため、団体名にあえて「大使館」と名付けています。
この団体の副代表、デビッド・パーソンズさん。
90年代前半、団体のロビイストとしてアメリカの大使館をエルサレムに移すよう、アメリカ議会に働きかけてきました。
その後、パーソンズさんはエルサレムに移り、イスラエルの要人と緊密な関係を築いてきました。
信仰に従って、イスラエルとアメリカの橋渡しをするためです。
福音派の団体 副代表 デビッド・パーソンズさん
「私たちは神がユダヤ人を愛していると気付いたのです。
神はユダヤ人を約束の地に戻したのです。
聖書に書かれていることを守らなければならず、神の教えに逆らうわけにはいきません。」
文化交流や観光を通じて、イスラエルとアメリカの関係強化を図るグループもあります。
代表のマイケル・エバンスさんです。
エバンスさんが、2年前にエルサレムに建てた博物館です。
アメリカから訪れる福音派の観光客や地元イスラエルの人々に、福音派がイスラエルを支援することの正当性をアピール。
エバンスさんは、イスラエルがエルサレムの支配を強めることが神の教えに沿ったものであり、支援すべきだと主張します。
マイケル・エバンスさん
「エルサレムはユダヤ人国家の首都です。
首都を分割するなどありえません。
ここは(ユダヤ教の預言者)アブラハムに始まるイスラエルの歴史が刻まれた土地なのですから。」
さらに福音派の中には、独自のテレビ局を運営し、エルサレムに支局を置いているところもあります。
放送では、今回のトランプ大統領の決定を歴史的な瞬間だと伝えています。
“イスラエル指導者は(決定を)賞賛し、福音派の指導者は、歴史的であり神の教えに沿った決定だとたたえている。”
さらに、歴史番組も数多く制作。
古代の歴史にさかのぼり、現在のイスラエルの占領政策を正当化するねらいがあるとみられます。
“エルサレムの街の名前は、イスラム教の聖典コーランには一度も出てきませんが、一方で、ユダヤ教の聖書には600回以上も出てきます。”
福音派テレビ局 エルサレム支局 ミッチェル支局長
「私たちはほかのテレビ局より、福音派の視聴者から厚い信頼を得ていると思います。
きちんと聖書の教えに沿った報道をしているからです。」
長年、イスラエルとの関係強化に取り組んできた福音派団体のパーソンズさん。
こうしたさまざまな活動が、今回のトランプ大統領の判断につながったと受け止めています。
福音派の団体 副代表 デビッド・パーソンズさん
「多くの福音派の指導者たちが、トランプ大統領に大使館の移設を直接働きかけました。
大統領の決定に感謝します。」
パレスチナ情勢への影響は
花澤
「ここからは、エルサレム支局の澤畑支局長と、ワシントン支局の西河記者に聞きます。
まずエルサレムの澤畑さん、福音派の影響も受けて行われているトランプ政権の中東政策ですが、今後パレスチナ情勢にはどんな影響を及ぼしていくのでしょうか?」
澤畑支局長
「一部の強硬な福音派は、イスラエルの極右勢力と同じくらい過激な主張をしています。
両者は、イスラエルの極右勢力への資金援助や、ユダヤ人入植地への視察を通じて結びつきを深めているとされます。
アメリカとイスラエルにまたがる勢力の間からは、『次はイスラム教の聖地の上に新しいユダヤ教の神殿を築くぞ』といった、より過激な主張も聞こえてきます。
イスラエルのネタニヤフ首相は、かつて『福音派はイスラエルの最良の友人だ』と発言しています。
トランプ政権の一方的な中東政策で、イスラエルが占領や入植地政策を強化し、パレスチナ人の苦境がさらに深まることが懸念されます。」
パレスチナの反応は
アメリカ国内の受け止めは
増井
「続いてワシントン支局の西河記者に聞きます。
アメリカでは今回のトランプ大統領の判断について、どのように受け止められているのでしょうか?」
西河篤俊記者(ワシントン支局)
「トランプ大統領の判断はアメリカ国内でも賛否が分かれていますが、アメリカと国際社会の間では、受け止めに温度差があると感じます。
この問題についてのアメリカメディアの伝えぶりは、ヨーロッパなどのメディアと比べると報道が少ないように見えます。
論調も、日頃のトランプ大統領への厳しい批判を考えると、今回は抑え気味という印象も受けます。
エルサレムをイスラエルの首都と認めることへの抵抗感は、ほかの国際社会と比べると、アメリカではそれほど強くないのではと感じます。」
トランプ政権 今後の影響は
花澤
「今回の問題は、トランプ政権の今後にどう影響するとみていますか?」
西河記者
「今回の判断は来年(2018年)の中間選挙を見据えた国内の支持者向けのアピールといえます。
トランプ大統領のねらいの1つは、福音派、中でも白人の福音派の支持離れを避けたいというものです。
去年(2016年)の大統領選挙では、白人の福音派のうち、トランプ大統領に投票したのは8割を超えたといわれています。
専門家は、今回の判断は、こうした特定の支持層を意識したメッセージだと分析しています。」
ジョージ・メイソン大学 マーク・ロゼル教授
「多くのアメリカ人は、今までエルサレムが首都でないことを知らなかった。
トランプ大統領のねらいが福音派の保守層や親イスラエルの人々の支持固めなら、まさにねらいどおりだ。」
西河記者
「ただ、福音派を対象にした世論調査では、大使館の移転に反対する意見も40%ありました。
これは、地域の緊張の高まりへの懸念があるのだと思います。
仮に中東情勢がさらに不安定化し、イスラエルの安全保障が脅かされるような事態になれば、福音派の支持が離れる可能性もあり、情勢を注視していく必要があると思います。」
増井
「このエルサレムの問題、21日には国連総会の緊急会合で、エルサレムの地位の変更は無効だとする決議案が採択される見通しです。
トランプ大統領は、こうした国際世論を分かった上で判断をしたということなんですね。」
花澤
「それは『福音派』と『ユダヤ社会』、この2つからの支持が重要だったということがあります。
その背景にあるのは、来年11月の中間選挙です。
これをにらんで『支持層を固める』ことが、カギを握る重要なものになっているんです。」
増井
「これが今のアメリカ議会の民主党と共和党の勢力図ですね。
上院では差はわずか、下院では40以上の差で共和党の方が議席が多いと。」
花澤
「中間選挙は下院の全部と上院の3分の1、来年は34議席が争われます。
このうち今もギリギリ多数となっている上院が焦点ですが、34議席のうち、今、民主党が26議席、共和党が8議席を占めているんです。」
増井
「すごく偏っていますね。
改選議席の中では民主党が圧倒的に多いんですね。」
花澤
「そこがポイントです。
そしてこの民主党の26の中には、大統領選挙ではトランプ大統領が勝った州が10もあり、そもそも共和党が強い州が4つあります。
もちろん、そのまま反映はされませんが、去年投票してくれた支持層をがっちりと抑えれば、少なくとも多数党は維持できるんじゃないかという計算がトランプ大統領にはあるんです。」
増井
「トランプ大統領とっては有利な条件での選挙になるんですね。」
花澤
「ですから、『エルサレムを首都と宣言』『パリ協定脱退』『税制改革による大幅な減税』。
難しそうに見える公約を強引に実行する姿勢を見せることで、失望させない、支持を守るという戦略なんです。
国内政治を色濃くうかがわせるエルサレムをめぐる決断。
国際社会の批判をかわすには、今後、混乱を鎮め、自らが主張するように中東和平を前進させることが求められています。」
この番組と制作スタッフは、NHKの良心を代表しているものとして期待している。
地上波は左翼的傾向が強いが、BSの中には客観的な情報を伝えようと努力している方々もおられるようだ。
次世代のNHKを背負って頑張っていただきたい。
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