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湯浅卓弁護士によるトランプジュニアの行動の判断

アメリカの法的問題の判断であれば、お馴染みの湯浅弁護士であろう。

東洋経済に彼のトランプジュニアに対する記事があった。

参考になれば幸いである。

 

トランプ・ジュニアの行動は「共謀罪」なのか | アメリカ | 東洋経済オンライン | 経済ニュースの新基準 より引用

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ドナルド・トランプ米大統領の長男、ドナルド・トランプ・ジュニア氏が公開したメールが米国で大問題になっている。ロシアゲート疑惑をめぐって、ジュニア氏がロシア政府との共謀容疑で有罪になるかどうか。その共謀があるかないかの法律解釈・運用をめぐる攻防は、日本にとっても決して無縁ではない。

日本では、テロなどの組織犯罪を未然に防ぐ目的で、「共謀罪」の構成要件を改めて「テロ等準備罪」を新設する改正組織犯罪処罰法が、6月15日に成立、7月11日に施行されたばかりである。新聞によって「共謀罪」法としたり、「テロ等準備罪」法としたり、使い分けがなされているように、法律の解釈・運用をめぐって甲論乙駁(おつばく)があり、国会審議でも迷走した。

要するに、この法律の新設によって、多くの犯罪が前倒しで処罰できるようになり、テロなどの犯罪は未然に防ぐことができる。その一方で、捜査当局による恣意的な解釈、運用によって「表現の自由などが侵害される」という懸念もある。

今回のトランプ・ジュニア氏のケースによって、今後、日本の企業経営者などが海外取引などをめぐって、何らかの共謀容疑に巻き込まれたり、あるいは共謀罪で訴えられたりするのを防ぐにはどうすべきか、ということを知るための参考になる。

もちろん、政治やビジネスの世界では、日米でそれぞれ違いはあるが、共謀というカテゴリーでは共通するところがあり、参考にすべきだろう。

トランプ・ジュニア氏がツイッターで公開したメールは、英国のパブリスト(広報マン)であるロブ・ゴールドストーン氏と交わされたもので、昨年6月3日から8日までの日付がついている。ゴールドストーン氏は、2013年にトランプ氏とロシアの富豪アラス・アガラロフ氏との共同主催によってモスクワで行われたミス・ユニバース・コンテストをサポートした人物であり、トランプ・ジュニア氏とは旧知の仲だ。

そのメールでゴールドストーン氏は、「ロシア検事総長によると、ヒラリー・クリントン候補が罪を犯しているという公文書や彼女のロシアとの取引情報がある。それをトランプ陣営に提供する用意がある。トランプ候補には非常に役に立つと思うが、どう思うか」とジュニア氏に伝えた。

これに対してジュニア氏は、「それはありがたい。もしその話が本当なら、”I love it”」と応じている。実は、この”I love it”の一言が大問題になっている。日本語に訳すと、「すばらしい」「最高だ」というニュアンスになる。

こういう明快かつ明確な言葉によって、相手に自らの意思を表明することは、もし両者の間で係争関係になったときには不利になることが多い。しかも、ジュニア氏はそれをツイッターで公開してしまった。その一言さえなければ、どっちに転ぶか、首の皮一枚で危機に追い込まれずに済むことになったかもしれない。

これは日本のビジネス社会でも学ぶべき教訓になる。つまり、相手のことを100%理解ないし信頼できていない段階では、決して明快かつ明確な返事をしてはいけないということだ。国際電話やメールでやり取りをしているとき、英語の表現でうっかり決定的な返答をすると、罪に問われることがある。

<モスクワから来た女性弁護士の正体>

ジュニア氏は、いったいなぜメールを公開したのか。その直前、メールの内容を何らかのルートでつかんだと思われるニューヨークタイムズ紙が、ジュニア氏に確かめるべく取材を申し込んだ。ジュニア氏はそれを拒否して自らメールを公開した、というのが真相らしい。自ら公開することによって透明性をアピールしようとしたのかもしれない。

現に、トランプ大統領は短い声明で、「長男は立派な人間だ」とジュニア氏を支持し、メール公開は透明性確保のために必要だったと擁護している。

そのメールには、さらに「近々モスクワからやってくるロシア政府の弁護士とも会ってほしい」とジュニア氏に面会を求めている。その弁護士はナタリア・ヴェセルニツカヤと名乗る女性弁護士。ジュニア氏は、昨年6月9日、ニューヨークのトランプタワーで設定した会合で、彼女に初めて会った。

その後、米メディアのインタビューで、彼女は「ロシア政府とは関係ない」と答えているが、真相ははっきりしない。わかっているのは、彼女は米ロ間で問題になっている養子縁組についてロビー活動をしていることだ。トランプタワーでの会合では、ヒラリー・クリントン候補に関する話はなく、すぐに養子縁組問題に話題が移ったという。

これについては、ジュニア氏に「ロシア政府の弁護士」として、面会の仲介を申し出たゴールドストーン氏が話を膨らませたか、あるいはでっち上げた可能性もある。

<トランプ陣営に共謀の意図はあったか>

昨年6月9日の会合には、もっと怪しげな人物も同席した。ロシア系アメリカ人のロビイストとされるリナット・アフメトシン氏である。NBCテレビによると、ロシア情報機関に属する二重国籍の人物という。

アフメトシン氏は、女性弁護士のヴェセルニツカヤ氏と、養子縁組問題のロビー活動をしてきた関係で同席したらしい。彼がロシア政府と関係しているかどうかについて、米当局は疑っているが、そのことをジュニア氏は知るよしもない。

それはともかく、昨年6月9日のトランプタワーでの会合には、少なくとも8人が同席した。トランプ陣営側はジュニア氏、義兄弟のジャレッド・クシュナー氏、選対委員長(当時)のポール・マナフォート氏の3人。ロシア側はゴールドストーン氏、ヴェセルニツカヤ弁護士、アフメトシン氏の3人。プラス通訳が1人、もう1人はアフメトシン氏の知り合いで、ヴェセルニツカヤ弁護士とも知人らしい人物とされる。

その会合が持たれた時期は、まさに大統領選でトランプ候補が共和党の本選候補に決まる時期であり、民主党クリントン候補に勝つために、相手にとってネガティブな情報を得ようと躍起になっていた時期だ。

そんな時期に、こうしたトランプ陣営とロシア側との会合は、ロシアゲート疑惑に一石を投じることになったことは間違いない。問題は、その会合そのものが罪に問われるかどうか、さらに、共謀に当たるかどうか。ジュニア氏の公開メールについては、トランプ陣営に共謀の意図があった証拠と疑われている。

合衆国選挙法では、外国からの資金援助や寄付など、カネを受け取ることは、ファイナンス全般として厳しく禁じられている。カネ以外に価値あるものとして、ライバルに勝つための情報も価値ありと解釈され、同罪となる。公開メールで明らかにされた会合の意図は、明らかに価値ある情報を得んがためであった。

さらに、別の条文で、価値ある情報を得んがために「勧誘」することも禁じられている。ジュニア氏がメールで返答した”I love it”の一言は、「その線でもっと行け」「もっとよこせ」という「勧誘」を意図した、明快な見解を示したと解釈される、という説も根強い。

<合衆国憲法違反については全否定>

ジュニア氏の合衆国選挙法違反については、ジュニア氏の弁護士も全否定している。今後、FBI捜査や議会調査の過程で疑惑が強まることになれば、ジュニア氏が個人的に立件される可能性はある。問題は、クシュナー氏らを含めて「共謀罪」が成立するのか。

8人で会合したことが共謀に当たるとなると、トランプ大統領の弾劾にも影響を及ぼす懸念がある。弾劾ということになれば、舞台は議会上院となり、ジュニア氏を取り巻く共謀の有無は上院の大きなテーマとなる。早晩、複数の委員会でジュニア氏の証人喚問がなされる運びとなろう。ジュニア氏が完全否定しても、クシュナー氏らトランプ陣営の誰かとの共謀の有無が徹底調査されるだろう。

ただ、「法」の観点から補足すると、米国では、「共謀罪」は簡単には成立しない。メディアでは、いかにも共謀罪が成り立ったかのように論評されても、論理的かつ精緻に、しかも法的に立証することは極めて難しい。

米国では、裁判官が「法」を創るだけでなく、訴訟弁護士も「法」を創る。日本のように弁護士は「外様」ではない。米国では、刑事事件と刑事訴訟の世界は、トップ50人の刑事専門訴訟弁護士によって伝統的に支配されている。いまだかつてその訴訟弁護士たちが、そうそう容易に「共謀罪」を成立させたことがないからだ。

日本は、「共謀罪」に関連して、それを見習うべきである。日本が導入した「共謀罪」を安易に運用することは決して許されない。社会全体でその運用に当たって厳しい目を注ぎ続けなければならない。

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なるほど、共謀罪が簡単に成立しない冷静な判断の仕組みがあるというわけのようだ。

50人の刑事専門訴訟弁護士に注目しなければならないようである。

 

 


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