原理講論を読む

日常生活の中で 考える糸口を求めて

逆ピラミッドと言うけれど 補足

一般に潜水艦の上官は「確認のため」に尋ねることは普通だが、興味にかられて何かを尋ねるということはない。

マルケは今までは乗員が機器を把握しているか確認するために質問をしていた。でもそのときは、自分が機器を把握できているか確かめるために尋ね始めた。

 マルケは自分に乗員が変えてほしいと思っていることを質問した。

 

●私に変えてほしくないと思っていることは何か。

●密かに私に変えてもらいたいと思っている。

サンタフェの土台とすべきよさは何か。

●もし私の立場だったら、何から手を付けるか。

●この艦の業績があがらない原因は何か。

●この鑑に配属中に個人的に成し遂げたいと思っている目標は何か。

●職務まっとうの妨げとなっているものは何か。

●この艦を配備に間に合わせるうえで、最大の難関になるのは何か。

●この艦の現状で最も苛立ちを覚えていることは何か。

●艦長として、私にいちばんやってもらいたいことは何か。

 

 

これらの質問に対して返ってきた答えは業務の行い方に関係する以下のような問題だった。

 

●管理の仕組みが影も形もない。

●担当士官が時間どおりメンテナンスを始めない。

●新人士官が艦内の基準を下げる元凶となっている。

●以前はこの鑑の監視席を任されていたのに、次々に移動となり、またゼロからやり直しさせられている。

●資格試験を受けたいのに4週間も待たされている。

●鑑に届いた無線を設置して更新したら、以前よりも受信状態が悪くなった。

●この艦に乗ったら就けると約束されていた仕事にまだ就けていない。

●目立たないようにふるまい、トラブルには近づかない。うまくいかないことが自分の身に起きたら、次は自分以外の誰かが失敗すればいいと密かに願っている。 

 

このようにマルケは現場を歩き回って乗員の話によく耳を傾けた。

そのことによって、サンタフェという潜水艦の状況 把握をし、問題を特定し、それに責任を持つ者は誰なのかを明確にしていくことになる。

 

軍隊という上意下達の典型的組織では「言われたことをやるだけです」という風潮がある。

上官は「命じるリーダッシップ」が仕事で、部下は「単に命令を実行するフォロワー」という考えである。命じられていないことは基本的にはしてはならない。

それを快く感じている者は少ない。

 

 その後、私は科長全員(機関科長・航海科長・火器科長・補給科長)と一緒に、1日の終わりに仕事の有無を確認するということについて細かく振り返った。やるべき仕事はあるかと副長(科長の上官でその上が艦長)に尋ねるのでは、各科長が抱える仕事の責任は、科長本人ではなく副長にあるということになる。仕事をやり遂げたという達成感も、科長ではなく副長のものになってしまう。

 確認するのはいいが、確認の仕方を変えるべきではないか。たとえば、「副長、本日はこれで失礼します。翌週の活動予定表は順調に仕上がっていますので、明日には艦長に大まかな計画を見せられると思います。予定していたスミス兵曹の面談については、本日できなかったので明日行います」というように、報告形式にするほうがいいのではないか。

 そうすれば、科長の仕事の責任を担うのは、副長ではなく科長となる。これが委ねるリーダーシップだ。

 

マルケの提案から生じうる問題を科長は指摘している。

責任と権限の一致からは疑問が生じるからであろう。

以下は科長が指摘した内容である。

 

 報告形式にした場合、その仕事を実行する責任や結果を説明する責任は誰にあるのか?

 もし、艦長がその仕事に関する決断を科長に委ねれば、それは艦長の評判やキャリアを科長の仕事ぶりに委ねることになるのではないか?

 だからこそ、そういうやり方がなかなか実現しないのではないか?

 

これは一理あるとマルケは思った。それどころか自分の将来どころか乗員の命が危険にさらされる。苦悩の末に彼は、艦の業績に対する責任は艦長である自分が持つが、業務を実際に行ううえでの決断は科長に委ねると決めた。

 

また、組織は「ミスを避ける」という意識から「優れた成果をあげる」という意識変革が必要だとマルケは考えた。

 

 ミスの数を減らしたり、ミスの深刻さを軽くすることはできるかもしれない。だがミスをなくすことは絶対にできない。それは計器の読み間違えやダブルブッキングのようなとるに足らないものかもしれない。でも、人間は必ずミスをする。だから、乗員はいつも自分に自信が持てない。

 こういう考え方から、彼らにとっての成功は、「失敗がない状態」や「批判や事件が起きない状態」という後ろ向きなものになる。悲しいことに、艦の中では「罰がないことが報酬だ」というジョークをみんながしていた。 

 

「優れた成果をあげる」という理念については、過去に挙げたサイモン・シネックの動画を参照。

 

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その他にも重要な動画がある。

www.youtube.com

 

www.youtube.com

 

 サイモンは価値を語れる少ない人物の一人である。

サンクチュアリの参考になるかと思う。

話を戻そう。

 

マルケは権限委譲に潜む問題をこう語っている。

 

 権限委譲を試みても、失敗になるケースは多い。それは、単なる「プロジェクト」や「取り組み」として行うからであり、組織のビジネスのあり方を支える中心原理(=遺伝コード)に踏み込まないからである。権限の委譲は、命じてできるものではない。

 命令で委譲しようとすれば、そおには「権限は自分にあり、お前に権限を委譲するかどうかを私が決めることができる」という前提が含まれるのでうまくいかない。そういうやり方は、権限が持つ力を根本的に奪ってしまう。権限委譲がはらむこの矛盾のせいで、失敗に追い込まれるのだ。

 「権限を委譲する」と言っておきながら、権限が持つ力を奪う形で委譲するのでは、名ばかりの委譲でしかない。私が目指したのは、仕事の上でも自分個人としても、潜水艦内で働く人や働き方に組織のよさをもたらす仕組み、それも、私という個人がいなくなっても続く仕組みを確立することだった。 

 

江利川会長も、ご自分がいなくなっても続く組織を確立したいと考えておられるだろう。

久保木修己氏が初代会長になったのは34歳の時だった。

二世の中でそのような候補がたくさん出てこなければならない。

30代の人は本気で考えなければならない。

我々爺婆は彼を支えるために生き長らえさせられているからである。

 

 部下の態度を変えさせるためには二つの方法があるとマルケは言う。

1,自分の考えを変えることで、彼らのふるまいが変わってくれると期待するやり方

2,自分の態度を変えることで、彼らの考え方が変わってくれると期待するやり方

マルケの場合は後者を選択した。

 

さて、上司の改革だけではなく、部下の方も改革しなければならないものがある。

命令を待って実行する受け身のスタイルから自発的に実行するスタイルに変化しなければならない。

自発性の問題である。

そこで実際には言葉遣いに注目して自発性を引き出した。

 

 部下の自発性を高めるカギは、言葉遣いにある。上司に従うだけの者は、「権限が自分にない言い方」をする。

●〜の許可をお願いしたいのですが。

●〜できればと考えています。

●何をすべきか教えて下さい。

●どうすべきだとお考えですか。

●何ができるでしょうか。

 

一方、自発的に行動するものは、「権限が自分にある言い方」をする。

●これから〜します。

●私の計画では〜。

●〜するつもりです。

●〜をしましょう。

 

もう少し具体的には、

 あるとき、操縦責任者から、「これから潜水します」と言われた私は、疑問に思ったことを尋ねる代わりに、そう言われたときに私は何を考えていると思うかと彼に尋ねた。

 「艦長は、潜水が安全で適切かどうか心配されていると思います」

 「そのとおり。だから、潜水が安全で適切だと思う理由を述べてはどうか。そうすれば、『よろしい』のひと言ですべて終わる」

 その後、「これから〜をします」という言い方をするときは、私が一言了承するだけですむよう詳細に報告することが彼らの目標となった。

 

さらに例をだすと、

 

「火器科長、君の科の責任者は誰だ?」

「私です」

「副長ではないんだな?」

「違います」

「ならば、なぜ副長の時間を君が処理すべきメッセージの管理のために使わせて、おまけにこんなミーティングまで開かせているんだ?」

「副長がすべきことではありません」

「うむ、ではこうしよう。君たちに課せられている仕事は、君たちの責任で完了させてくれ」

「わかりました」

 

「航海科長、私がまだ艦長に就任する前、副長室に”確認”にやってきたときのことを覚えているか?」

「はい」

「君が担う仕事を君に告げることが、どうして副長の仕事になるんだ?」

「えっ、それは・・・。わかりません」

「それは副長がすべきことではない。これからはこうしよう。君たち自身が、自分の科の作業状況や、自分の科に課せられた作業の期日を把握するんだ。私でも副長でもない君たちが作業を完成させることに責任をもつんだ」 

 

 上官が部下にこうしろと説明するスタイルから、部下が報告するスタイルにして、彼らに主導権と責任をもたせたわけである。

 

 

さて、それぞれのポジションで自発的に状況判断して決断する際に心がけることとして次のようなことが書かれている。

 

●ただちに決断を下す必要があれば、リーダーが決断を下す。ただし、その決断の是非を問うチームを作り、彼らに評価させる。

●あまり時間のない中で決断を下す必要がある時は、短い時間でいいのでチーム全員の意見を募ってから決断を下す。

●決断を下すまでに時間の余裕があるときは、チーム全員から意見を出させる。ただし、合意を強要してはいけない。そんなことをすれば、少数意見が封じ込められ、異論を唱えにくくなる。全員が自分と同じ考えなら、チームや部下がいる意味がなくなる。

 

 

  権限を下の立場の者に委譲するほど、組織にいる全員が組織の目標を正しく理解していることが重要になる。

 目標は上官が伝え、部下は達成のための手段を選ぶ。

目標や手段が適切に選択されるためには、共通の価値観の共有が必要である。

それは「サンタフェ信条」としてまとめられている。

 

この価値観を背景として、実際的行動を導くために組織の方針を示す、

サンタフェの行動指針」もある。

自発性・イノベーション・高度な専門知識・勇気・コミットメント・継続的改善・誠実さ・権限・チームワーク・積極性・時間についてそれぞれ説明がある。

 

サンタフェでやったこと、やらなかったこと

 

<やったこと>             <やらなかったこと>

委ねるリーダーシップ          命じるリーダーシップ

権限を与える              権限を握る

 命令を避ける              命令する

命令をするときは、           命令をするときは、

乗員が異を唱える余地を残す       自信を持って絶対だと明言する

やるべきことを確認する         やるべきことを説明する

会話をする               会議をする

上官と部下が学び合う機会を設ける    上官が部下を指導する機会を設ける

人を重視する              技術を重視する

長い目で考える             目の前のことを考える

いなくなっても困らない存在を目指す   いなくなったら困る存在を目指す

訓練の回数より質を重視する       訓練の質よりも回数を重視する

正式な命令以外でも、          明瞭簡潔な言葉のみを使用し、

会話を通じて情報交換する        正式な命令以外の言葉は交わさない

つねに好奇心をもつ           常に疑いを持つ

意味のない手順や工程をすべて排除する  手順や工程を改善する

関しや検査を減らす           監視や検査を増やす

情報を公開する             情報を公開しない

 

 

<三つの理念と仕組みの関係>

1,支配からの解放

●支配構造の遺伝子コードを見つけ出して書き換える

●態度を変えることで新しい考えをもたらす

●早めに短く言葉を交わし、仕事の効率を高める

●「これからします」という言い方を導入し、

 命令に従うだけだったフォロワーを自発的に行動するリーダーに変える

●解決策を与えたい衝動を抑える

●部下を監視するシステムを排除する

●思っていることを口に出す

2,優れた技能

●直前に確認する

●いつどこでも学ぶものでいる

●説明するな、確認せよ

●同じメッセージを絶えず繰り返し発信する

●手段ではなく目標を伝える

3,正しい理解

●ミスをしないだけではダメだ、優れた成果をあげよ

●信頼を構築し部下を思いやる

●行動指針を判断の基準にする

●目標を持って始める

●盲目的に従うことなく疑問を持つ姿勢を奨励する

 

 

ここに引用し紹介した内容は一部だが、関心のある方は実際に本を読んでほしい。

 

米海軍で屈指の潜水艦艦長による「最強組織」の作り方

米海軍で屈指の潜水艦艦長による「最強組織」の作り方

 

 

わたしは献身時から、なぜ家庭連合では皆を勝利的アベルとして育成するのではなく、

勝利的カインに育成することばかりに注目し実践しているのか理解ができなかった。

皆んなが良きアベルになる文化を作ればいいものをと思ったものだ。

堕落性を脱ぐための蕩減条件にばかり固執したからかもしれない。

この本はそんなことを考えてきた自分にとっては我が意を得たりで、救われた気さえした。

どうかサンクチュアリの組織文化をつくるヒントとして活用されることを願う。

 

 


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