メルケル首相4期目なるか ~社会民主党・党員投票の行方~ | 国際報道2018 [特集] | NHK BS1 より引用
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増井
「ドイツの連邦議会選挙から5か月余り。
今も、政権が発足できない異常事態が続いています。
メルケル首相率いるキリスト教民主・社会同盟は、先月(2月)になってようやく、第2党の社会民主党との大連立で合意しました。
そして今、これを承認するかどうか、社会民主党が党員投票を行っています。」
花澤
「4期目のメルケル政権は発足できるのか。
今日(1日)の特集では、党員投票の行方とドイツ政治が抱える課題に迫ります。
まずは、選挙後の状況を見ていきましょう。」
松岡
「4年間、連立政権を担ってきた2つの党が、去年(2017年)の選挙で議席数を大幅に減らした結果です。
メルケル首相率いる中道右派の『キリスト教民主・社会同盟』は、246議席。
中道左派の『社会民主党』は、153議席。
一方、設立からわずか5年の新興右派政党『ドイツのための選択肢』が議席ゼロから一気に第3党へと躍進し、現在92議席を占めています。
キリスト教民主・社会同盟は、まず2つの少数政党、『自由民主党』と『緑の党』と連立交渉をしましたが、決裂。
そこで、第2党の社会民主党との大連立を再び目指すことに。
しかし社会民主党には、大連立を組むことで自分たちの存在が埋没してしまうのではないかという懸念があり、交渉は難航しました。
交渉で議論された主な項目です。
政権発足なるか ドイツ連立交渉の行方
リポート:野田順子支局長(ベルリン支局)
キリスト教民主・社会同盟 メルケル首相
「連立交渉の合意は、安定した政府を発足させる土台になる。」
社会民主党 シュルツ党首(当時)
「この合意には社会民主党の主張も盛り込まれている。」
選挙から4か月余りを経て、ようやく合意に達した連立交渉。
政権発足に向けて、今、最後の関門を迎えています。
社会民主党が政策した動画
“約46万4,000人の社会民主党員が投票します。”
社会民主党が先月から郵送で行っている党員投票。
177ページにもわたる連立の合意内容への是非を問うものです。
賛成が多数を占めれば連立は承認され、4期目のメルケル政権が発足することになります。
社会民主党が政策した動画
“3月2日必着で郵送してください。”
社会民主党の党員になっておよそ30年の、クリスティーネ・ミュールバッハさんです。
悩んだ結果、今回の連立を支持することにしました。
社会民主党 党員 クリスティーネ・ミュールバッハさん
「大連立には懐疑的でしたが、ほかに選択肢がないのでしかたありません。」
ミュールバッハさんにも、投票用紙と、連立協定の内容が書かれた機関誌が届きました。
シングルマザーのミュールバッハさんは、社会民主党が公約に掲げた低所得層や中間所得層向けの政策が協定に盛り込まれたことを評価しています。
社会民主党 党員 クリスティーネ・ミュールバッハさん
「子ども手当が増額されるし、社会民主党の要望も盛り込まれているわ。」
大連立を支持することにした最大の理由が右派政党への懸念です。
難民の受け入れ反対を掲げる新興右派政党「ドイツのための選択肢」。
去年の選挙で一気に議席を獲得し、社会民主党を脅かす存在となっているのです。
「ドイツのための選択肢」の議員団のトップ・バイデル氏のツイッターにも、その勢いが表れています。
先月発表された世論調査の結果を紹介し、「ドイツのための選択肢」の支持率が16%となり、15.5%だった社会民主党を初めて上回ったと誇示しています。
この結果を受けて、「我々は国民政党だ!」という強気のつぶやきも。
ミュールバッハさんは、仮に大連立を拒否して再選挙が行われたとしても社会民主党にとって厳しい結果になるとみて、連立に賛成する1票を投じました。
社会民主党 党員 クリスティーネ・ミュールバッハさん
「大連立以外の選択肢を考えると恐ろしいです。
右派政党は脅威です。」
しかし、党内からは連立に反対する意見も上がっています。
投票を前に、ベルリン近郊で開かれた集会です。
批判の急先鋒である青年部のキューネルト代表は、大連立を続ければ政策で妥協を迫られ、党の独自性が失われると主張しました。
社会民主党 青年部 キューネルト代表
「2度も大連立を組んで、両党に共通する政策はすでにやりつくした。」
このままでは4年後の議会選挙で、また議席を減らすのではないかという危機感も広がっています。
参加者
「大連立を続けたらどうなるでしょうか?
指導部は何も変えられず、4年後の選挙で大きく議席が減るでしょう。」
参加者
「連立合意は若い世代のことを考えていません。
公約と異なる政策を行なえば、誰も投票しません。」
一方、メルケル首相率いるキリスト教民主同盟でも連立への不満がくすぶっています。
社会民主党 党員投票の行方は
花澤
「取材にあたっている、ベルリン支局の野田支局長に聞きます。
社会民主党の中には連立に対して賛否両論あるようですが、野田さんは投票の行方をどうみていますか?」
野田順子支局長(ベルリン支局)
「さすがに、この期に及んで連立の合意をひっくり返すようなことはないのではないかとみています。
これまで連立交渉の節目で党大会を開くなど、党内手続きを踏んで合意に至っていますし、合意の内容も、希望通り閣僚ポストを獲得するなど、社会民主党にとって悪い内容ではないからです。
取材をしていて感じるのは、若い人に反対が多くて、年配の人ほど賛成が多いことです。
社会民主党の党員の平均年齢は、およそ60歳で、この年齢構成も賛成派に有利に働くと思います。
ただ、反対派の意見には強い意志を感じますが、連立に賛成する人は再選挙になったら勝算がないという、いわば消極的な賛成です。
こうした党員の思いが投票にどう表れてくるのか、結果は票を開けてみなければわからないとも感じています。」
連立合意 否決された場合は?
増井
「仮に、投票で否決されたらどうなるのでしょうか?」
野田支局長
「メルケル首相にとっては、ひとまず安定政権を発足させる可能性はなくなり、少数与党として政権を作るか、再選挙をするかのいずれかになります。
最終的にはシュタインマイヤー大統領が決断するため、メルケル首相は大統領と今後の対応を協議することになるとみられます。
メルケル首相は、以前、インタビューで『少数与党政権よりも再選挙のほうが良い』と発言していますので、再選挙の可能性も十分あります。
その場合には、9月の選挙で議席を減らし、連立交渉も2度にわたって失敗したとして、メルケル首相の責任を問う声が党内で高まる可能性もあります。
その意味でも、今回の党員投票はメルケル首相の政治生命がかかった投票で、結果が注目されます。」
増井
「この投票の結果は重要ですね。」
花澤
「党員がちゃんと投票するのかどうかも分からないというのもカギだということですよね。
そして仮に党員投票で連立が承認されなければ、少数与党でいくか再選挙かということになり、またさらに混乱が続く。
さらに承認されたとしても、両党ともかなり不満を抱えている人たちがいるということで、双方とも譲りにくい状況で政権運営していくことになりますから、これも不安定ですよね。
いずれにせよ、ドイツの政治は当面、不安定な状況が続くことになりそうです。」
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