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トランプ政権の成果を振り返る報道から

トランプ政権1年(1) 中間選挙 審判の行方は | 国際報道2018 [特集] | NHK BS1

より引用

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この1年、ツイッターで2,500回以上もつぶやいたトランプ大統領
17日、発表したのは「フェイクニュース大賞」。
自身がうそだったとみなした報道を挙げ、メディアを批判しました。

アメリカ トランプ大統領
「アメリカを再び偉大にする!」

この1年繰り広げられた“トランプ劇場”。
その発言は、アメリカ社会や世界に大きな波紋を起こしてきました。

トランプ大統領
「これは大惨事“オバマケア”の終わりの始まりだ!」

「アメリカ史上最も大きな税制改革だ。」

「私はあのひどいTPPからアメリカを離脱させた。」

そんなトランプ大統領の前に今年(2018年)立ちはだかるのが、議会の中間選挙です。
これまでの政権運営に対する、国民の審判が下されます。

市民
「大統領については話す価値もない。
(野党の)民主党の方が国民の意見を反映している。」

市民
「大統領はいい仕事をしているので、共和党議席を維持してほしい。」

政権運営に大きな影響を与える中間選挙
その行方を展望します。

大統領就任1年 “トランプ劇場”総括

花澤
「今月(1月)20日で就任1年を迎えるトランプ大統領
今日(18日)と明日(19日)の特集は、その課題や今後の行方をシリーズでお伝えします。
1日目の今日は、今年秋に行われるアメリカ議会の中間選挙についてです。」

増井
「まずはこちらをご覧ください。
トランプ大統領が掲げていた主な公約のうち、この1年、実現したものとできなかったものをまとめました。

TPP=環太平洋パートナーシップ協定の離脱やパリ協定の脱退表明などは実現しましたが、医療保険制度、いわゆる『オバマケア』の撤廃や、メキシコ国境沿いの壁の建設などは実現できていません。
そして支持率はといいますと、この1年、40%前後で推移しています。」

花澤
「歴代大統領に比べると低いんですが、底堅い支持層は揺るがなかった1年だったといえると思います。」

番記者”が見たこの1年

花澤
「ここからはこの1年、“トランプ番”として大統領を追いかけてきた、ホワイトハウス担当の広内記者に聞きます。
トランプ大統領の1年をどう見ますか?」


広内仁記者(ワシントン支局)
「まさに激動の1年といえると思います。
トランプ大統領オバマ前政権の政策を次々と転換し、われわれ記者も振り回されてきました。
ただ、トランプ大統領の姿勢は選挙戦の頃と何も変わっておらず、批判を受ける一方、支持者はそこに引きつけられています。
ホワイトハウスは、まるでトランプ大統領が司会を務めるテレビ番組の舞台のようだといわれています。
先週、トランプ大統領は、閣議の冒頭、報道陣らに対して『スタジオにようこそ』と述べたほどです。
さらに今年に入って、大統領執務室で過ごす時間が午前11時頃から午後4時頃までに減り、そのほかは寝室などでテレビを見るなどしていて、ツイッターのための時間が増えたといわれています。
2年目に突入しても、トランプ劇場は続きそうです。」

中間選挙 国民の審判は

松岡
「そのトランプ大統領にとって、まさに正念場となるのが、今年11月に行われるアメリカ議会の中間選挙です。
現在、上院・下院とも過半数を占めているのは、与党・共和党です。
中間選挙では、議席の差がわずか2議席の上院で、34議席が改選。
下院は、全435議席が改選されます。
共和党が上下両院で過半数議席を維持すれば、トランプ大統領は公約を実現しやすくなりますが、維持できなければ政権運営は行き詰まります。
さらに中間選挙は、2020年の大統領選挙を占う上で重要な節目になるとされているため、すでに与野党の攻防が始まっています。」

中間選挙 国民の審判は

リポート:広内仁記者(ワシントン支局)

「ラストベルト=さびついた工業地帯」と呼ばれる地域の1つ、中西部ミシガン州
もともと民主党の地盤で、現職の上院議員民主党です。
しかし、一昨年(2016年)の大統領選挙では、共和党のトランプ氏が勝利。
今年の中間選挙でも激戦が予想されています。

「大統領はよくやっています。
中間選挙共和党候補に投票するつもりです。」

「ひどい大統領です。」

民主党に投票しますか?」

「必ずしも民主党ではないが、トランプは嫌だね。」

自動車生産用の装置などを作る工場を経営する、マーク・マセソンさんです。
中間選挙では、トランプ大統領の政策を推進する候補者に投票するつもりです。
トランプ政権のこの1年を高く評価しているマセソンさん。
その1つが、税制改革による法人税の減税です。
年間およそ4万ドル、日本円で400万円以上、税金を支払わずに済む見込みで、従業員を新たに最大10人雇い、設備投資も増やすつもりです。

工場 経営者 マーク・マセソンさん
トランプ大統領はわれわれの期待通りです。
将来を楽観させてくれます。」

さらに、オバマケアの撤廃やインフラ投資など、ほかの公約の実現も会社の利益につながると期待を抱いています。
25人の従業員も、トランプ支持者ばかりだといいます。

工場 経営者 マーク・マセソンさん
「大統領の公約すべての実現を見たいので、中間選挙では必ず共和党に投票します。」

こうした支持者の後押しで、議席の増加を目指すトランプ大統領
中間選挙に向け、積極的に地方遊説を行う考えです。

トランプ大統領
「われわれは共和党の議員を増やさなければならない。
そうすれば、もっと多くのことができる。」

ところが今、共和党内の対立で、各地で「内戦状態」となっています。
その1つ、南部バージニア州です。

共和党 コムストック下院議員
“私はこの選挙区で結果を出し、民主党とも共和党とも協力します。”

共和党の現職のコムストック下院議員です。
トランプ大統領とは距離を置き、選挙に臨もうとしています。
この1年、トランプ大統領政権運営に疑問を抱いてきたコムストック議員。
オバマケアの撤廃には反対し、造反。
セクハラやわいせつ疑惑でも大統領を非難してきました。

共和党 コムストック下院議員
「権力を持つ人間によるセクハラ行為に『もうたくさんだ』と言うべきです。」

このため、トランプ大統領寄りではないと見なされ、同じ共和党から刺客が立てられました。
元軍人でビジネスマンの、ヒル候補です。
この日、トランプ支持者との座談会でコムストック議員を激しく攻撃しました。

共和党 ヒル候補
「彼女は民主党とともに大統領の予算案にも反対しました。
それでもまだ支持しますか?」

ヒル候補は、トランプ大統領の政策を進める必要があるとして、みずからへの支持を訴えました。
今、各地で行われる共和党予備選挙で、こうした刺客候補の擁立が相次いでいます。

共和党 ヒル候補
「私はトランプ大統領の政策を前進させる議員になります。
アメリカを再び偉大にするため、ワシントンの反対派を潰したいのです。」

対する民主党
1年たっても、トランプ大統領に対抗する明確な戦略を見いだせていません。

民主党 ヘルマー候補
トランプ大統領は分断を招くやり方で国を治めていて、不安です。」

大統領を批判するだけでいいのか、リベラルな政策に寄り過ぎていないか、各地で路線対立が発生。
この選挙区では、民主党予備選挙に9人が立候補。
乱立状態になっています。

民主党 ヘルマー候補
「われわれはやり方を変え、国民のために戦うという原点に戻る必要があります。」

与野党の激しい攻防に

花澤
共和党は内部分裂、民主党も戦略を見いだせていないようですが、中間選挙はどうなりそうですか?」

広内記者
「激しい攻防になると思います。
まず上院ですが、両党の差はわずか2議席です。
ただ、改選される34議席のうち、民主党現有議席が26と多く、その中には、大統領選挙でトランプ氏が勝利した州が10もあり、民主党にとっては守りの選挙となります。

また、下院では、両党の差が40議席以上あります。
このため、上下両院いずれも民主党が多数派を奪還するのは簡単ではないとみられています。
一方で、中間選挙は歴史的に、政権与党に厳しい結果が出ることが多く、大統領の支持率が50%を切っている場合、与党は議席を大きく減らす傾向にあります。
このため、共和党が逆風を受けて議席を減らし、民主党が特に下院で多数派を奪還する可能性もあるとみる専門家もいます。」

ブルッキングス研究所 モリー・レイノルズ研究員
世論調査の結果を見ると、明らかに民主党に有利な結果となっています。
民主党が上下両院のどちらかか、両方で多数派を奪還すれば、劇的な影響が出ます。」

大統領はどう臨むのか

増井
「では、この状況を踏まえてトランプ大統領中間選挙にどう臨もうとしているのでしょうか?」

広内記者
注目は30日に行われる一般教書演説です。
トランプ大統領は、好調な経済や税制改革などの実績を訴えるとともに、インフラ投資や国境の壁の建設など、公約の実現を目指す考えを強調する見通しで、中間選挙への戦略が透けて見えます。
トランプ大統領としては、大統領選挙の時のように白人労働者などの支持を固められれば、中間選挙も勝利できるという計算があるのだと思います。
仮に共和党が上下両院で過半数議席を維持できれば、トランプ大統領は信任を得られたとして政権運営に大きな弾みがつきます。
さらに共和党内でトランプ大統領の政策を支持する議員が増えれば、公約を実現しやすくなり、2020年の大統領選挙での再選も視野に入ってきます。
しかし、民主党が上下両院どちらかでも多数派を奪還すれば、トランプ大統領政権運営は行き詰まります。
さらに、議会ではロシア疑惑などの調査が進み、次の大統領選挙での再選に黄色信号が点滅しかねず、今年トランプ大統領は正念場を迎えます。」

増井
「11月というとまだ先に思えますが、もう準備は始まっているんですね。」

花澤
「この大統領就任2年目に行われる中間選挙は、新大統領に対して厳しい評価が下されることが多い、いわば鬼門のようなものなんです。


オバマ大統領は下院で63議席も減らすという歴史的大敗をして過半数を奪われ、その後、議会対策に苦労し続けることになりました。
果たして今回はどうなるのか。
トランプ大統領は11月まで、内政・外交ともに中間選挙を強く意識した政策を続けていくことになります。」

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トランプ政権1年② 移民引き締めに揺れる被災地出身者|国際報道2018[特集] |NHK BS1 ワールドウオッチング より引用

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花澤
「これまでの政策を次々と覆そうとするトランプ大統領政権運営には賛否両論が巻き起こっています。
今日(19日)は、トランプ政権の経済・外交・移民政策について、この1年の総括と課題を特集します。」



増井
「まずは経済について。
トランプ大統領就任以降、ニューヨーク株式市場のダウ平均株価は最高値更新が続き、1年足らずで6,000ドル以上、上昇しました。
さらに失業率も改善し、堅調な雇用情勢が続いています。」

花澤
トランプ大統領は、好調な経済を“みずからの成果だ”と強調し、今後も『アメリカ第一主義』の政策を推し進める考えを示しました。」

経済で成果強調

就任1年を前に、トランプ大統領ペンシルベニア州の工場で演説を行いました。

アメリカ トランプ大統領
大統領選以来、220万の雇用が生まれた。
何が起きているか見てほしい。
トヨタが来て、アメリカの自動車メーカーもメキシコから戻ってくる。」

好調な経済をみずからの政策の実績だと強調しました。

トランプ大統領
「我々を止めることはできない。
皆さんは今まさに、アメリカを再び偉大にしている。」

先月(12月)、トランプ大統領法人税率を21%に引き下げることなどを含む大規模な税制改革を実現させ、市場にはさらなる期待感が広がっています。
IMF国際通貨基金は、アメリカのGDPの成長率見通しを3か月前はプラス2.3%としていましたが、2%台の後半まで大幅に上方修正する方針です。

好景気を受けて、トランプ大統領は今後も「アメリカ第一主義」を推進していく考えを示しました。

トランプ大統領
「アメリカが第一だ。
アメリカを踏み台にして増長した国がある。
こうしたことはもはや起きないだろう。」

一方、今年度の予算に関しては、厳しい局面を迎えています。
メキシコとの国境沿いで壁を建設する費用を要求した今年(2018年)9月までの予算案をめぐり、与野党の間で折り合いがつきませんでした。
下院では18日、1か月分の暫定予算案を可決。

トランプ大統領
民主党は税制改革を台なしにするため政府機関の閉鎖を望んでいる。

一方、上院では対立が続いていて、政府機関の一部閉鎖に陥る事態を防ぐため、ぎりぎりの調整が行われています。

“アメリカ第一” 経済では成功?

増井
「この1年を通して、経済政策はどんな評価なのでしょうか?」

花澤
「株価が好調で経済政策についてはおおむね評価が高い状況です。
特にこの2つです。」

増井
『大幅減税』と『規制緩和ですか。」

花澤
「この2つが企業に勢いを与え、アメリカ経済に貢献しているといわれています。
仮にクリントン氏が大統領になっていたら、規制が増えて、こんなに経済が好調にはならなかっただろうと指摘されています。

増井
「ビジネスマンのトランプ大統領のおかげという評価はされているんですね。
2年目も順風満帆にいくのでしょうか?」

花澤
「懸念も2つ指摘されています。」

増井
「『通商政策』と『移民政策』ですか。」

花澤
「特に通商政策の方はNAFTAの再交渉を求めていて、応じられなければ離脱するとほのめかしているわけです。
そうなればメキシコで生産しているアメリカの自動車産業などの製造業、カナダとメキシコへの輸出が重要な畜産業などに大きな影響が出ると懸念されています。

不法移民は『不法』ではあるんですがアメリカ経済を支える重要な労働力であり続けてきたわけです。
これも、製造業や農業など広範囲に悪影響が出る可能性が指摘されています。

トランプ政権の経済政策は出だしは好調ですが、今後どうなるのかは不確定要素が多く、不透明感も漂っています。」

増井
「さて、これまでのところアメリカ経済は好調ですが、トランプ政権は日本との間で貿易不均衡の是正を目指しています。
アメリカのハガティ大使は、2国間の貿易協定の締結に向け、枠組み作りを進める考えを示しました。」

対日貿易に変化は?

アメリカ ハガティ駐日大使
「日米の安全保障分野での協力が深まる中、経済でも強固なつながりを作るべきだ。
今年中に進展がみられるよう、できる限りのことをしていく。
日本への液化天然ガスの輸出を増やしていけると思う。
医療機器や医薬品の分野でも、革新的な技術を輸出できるならすばらしい。

花澤
「ということは、春には日本に対して通商政策を厳しく迫ってくるということですよね。」

増井
「日本にも関わってくる問題ですね。
続いては、外交です。
トランプ大統領は世界に対しても“アメリカ第一主義”を掲げ、強気の姿勢を取っています。」

アメリカ第一 “強気外交”

トランプ大統領がアジアでの最優先課題と位置づける北朝鮮問題。

トランプ大統領
「小さなロケットマン、彼は病的だ。」

核放棄に向けた対話でなければ応じないと、圧力を強め続ける姿勢を維持しています。

アジア政策では中国への強い警戒感を示し、対抗していく姿勢を打ち出しています。
中東ではシリア軍に対してミサイル攻撃を行い、世界に衝撃を与えました。
地上部隊を派遣しないまま空爆を強化。
ISの弱体化を成果とアピールしています。
そして先月、聖地エルサレムの地位について「イスラエルの首都と認める」と宣言。
パレスチナ側は反発していますが、アメリカとの関係を重視するアラブ諸国パレスチナの温度差も浮き彫りになっています。

トランプ外交について2人の専門家に話を聞きました。
去年(2017年)10月まで国務省の上級顧問として政権の外交政策に携わってきた、クリスチャン・ウィトン氏。
そして、CSIS=戦略国際問題研究所ジョン・ハムレ所長です。

国務省 元上級顧問 クリスチャン・ウィトン氏
トランプ大統領は交渉第一の男です。
交渉を通じて本能的、直感的に考えます。」

ウィトン氏はこのように評価しました。
一方のハムレ氏は…。

CSIS(戦略国際問題研究所) ジョン・ハムレ所長
「政権は外交面での戦略を打ち出せません。
大統領の考えを正確に知ることができないからです。」

予測不能といわれる大統領の個性が、外交政策全体に悪影響を与えているという見方を示しました。

CSIS(戦略国際問題研究所) ジョン・ハムレ所長
「中東外交にはアラブ諸国との良好な関係が求められるが、大使館移転の決定で、アラブ諸国にとってアメリカとのつきあい方が難しくなった。」

アメリカの中東和平交渉への関与は困難になると指摘しました。

国務省 元上級顧問 クリスチャン・ウィトン氏
「大統領は、交渉がうまくいかなければ、いつでも交渉のテーブルを降りるつもりでいます。
去年は北朝鮮問題に対処するため中国との対話を重視してきましたが、今年は中国に行動と成果を求めることになります。



増井
「本能的・直観的、そして予測不能という指摘もありましたが、外交にどう影響したのでしょうか?」

花澤
「確かに予測不能なんですが、例えば北朝鮮には『本当に軍事攻撃するかも』と思わせることで譲歩を引き出すという戦略で、時に強みにもなっています。
そしてトランプ外交はオバマ外交の数々の負の遺産を背負って始まっているので、私は評価できる点もあるなと思います。
その特徴は3つあります。」

増井
「『同盟重視』『強いアメリカ』『アメリカ第一主義』。」

花澤
まず『同盟重視』ですが、オバマ政権では同盟国の信頼が薄れましたが、トランプ政権はイスラエルサウジアラビア、日韓などとの連携を深めています。
一方、EUとは溝が深まりましたが、これも徐々に改善の方向にあります。

そして『強いアメリカ』は、シリア攻撃、アフガン増派、そして北朝鮮や中国への強硬姿勢などです。

増井
「そして3つ目の『アメリカ第一主義』。
この言葉はこの1年で何度も聞きましたが、自国の利益を最優先していくというイメージがありましたが?」

花澤
「確かに、パリ協定、TPP離脱、NAFTA見直し、対中通商問題など、強引に自国の利益を確保しようとしていますよね。

ただ、北朝鮮政策、アフガン増派などは『アメリカの利益』というよりも地域の安定、『世界の警察』の役割を果たしている面もありますので、それと『アメリカ第一主義』という二面性、ある意味での矛盾をはらんだまま突き進んでいる形ですよね。」

増井
「そしてもう1つ、エルサレム問題。
これは今も世界を揺るがしていますし、批判も多いですよね。
これについてはどうでしょうか?」

花澤
「確かに従来とは違うやり方で世界を振り回している面はあります。
そして国務省が機能不全に陥っているため、きめ細かさにも欠けています。
ただ、北朝鮮エルサレムも、結果が出るのはまだこれからだと思います。
もう少し見守る必要があります。
何をするか分からない怖さをはらみながら、今後も世界を大きく揺さぶっていくことになりそうです。」

増井
「続いては、トランプ大統領の移民政策の1年を検証します。」

揺れる“移民大国”

今、移民大国・アメリカが揺れています。

アメリカ トランプ大統領
「国家の安全のためなら、入国の停止や制限など何をしてもいい。」

就任直後から、不法移民対策の強化や入国制限など、移民に厳しい政策を次々と打ち出したトランプ大統領
さらに、8年前に大地震に見舞われたハイチの人などを対象にした、一時的な滞在許可制度「TPS」の打ち切りを発表。
そして今月(1月)、「トランプ大統領が口にした」と報じられた発言が事態をいっそう混とんとさせました。

“なぜ我々は不潔極まりない国々から移民を受け入れているのか?”

打ち切りの背景には差別的な考えもあるのではと、批判の声が上がっています。

「強制送還やめろ!」

一方、トランプ支持者を中心に、この打ち切りを支持する声も。

「“一時的”なTPSがずっと続いている。
もう終わらせるべきだ。」

移民大国・アメリカは、どこに向かうのでしょうか。

揺れる“移民大国”

花澤
「この1年、社会を二分する大きな議論を巻き起こしたのが、アメリカの根幹ともいえる移民政策です。」

松岡
トランプ大統領がこの1年に打ち出した移民政策は、就任直後、メキシコとの国境沿いの壁の建設や、中東などイスラム教徒が多く住む国からの入国を制限する大統領令に署名しました。
去年9月には、オバマ政権下で導入された、子どもの時に不法入国した若者に在留資格などを与える措置の撤廃方針も発表。
そして今、議論を巻き起こしているのは、『TPS=一時保護資格』という措置です。
これは、出身国が災害に見舞われた外国人に、人道的な見地から一時的に滞在を許可する制度。
現在、この制度の下では、大地震で多数の犠牲者が出たエルサルバドルやハイチなど、10か国から、合わせて31万7,000人あまりが滞在を認められています。
歴代政権は、この制度を継続してきましたが、トランプ政権は去年11月からハイチやエルサルバドルなどの出身者に対するTPS打ち切りの方針を次々と決定
一時滞在の許可が停止されることになり、強制送還されるおそれもあります。

トランプ支持者からは『当然だ』とする声が上がる一方、対象者には『打ち切りは非人道的だ』と不安の声が広がっています。」

揺れる“移民大国”

リポート:須田正紀記者(アメリカ総局)

大統領選挙のキャンペーン中の一昨年(2016年)9月。
トランプ氏は、フロリダ州マイアミ近郊のハイチ系の移民が多く暮らす地域を訪れました。

トランプ大統領
「ハイチの大地震は壊滅的被害をもたらし、30万人以上が亡くなった。
多くの涙が流されたあとも、ハイチはまだ苦しみの中にある。」

地震やハリケーンなどの自然災害に見舞われるハイチの人たちを気遣い、支持を訴えていました。

トランプ大統領
「私に投票しようがしまいが、私はあなた方の最高の味方になりたい。」

ところが、先月。
ニューヨークのトランプタワーの前では…。

「強制送還をやめろ!」

トランプ大統領から「最高の味方になる」と言われたハイチ出身の人たちが、デモを行っていました。
きっかけは、トランプ政権が去年11月に発表した、ハイチ出身者に対するTPS=一時保護資格の打ち切りの決定です。
選挙中の発言とは正反対の事態に、怒りと動揺が広がったのです。

「(ハイチに)帰ってどうしろというの?
仕事も食べ物もないのに。」

「トランプ政権には人間味のある思いやりの心を求めます。」

TPSの下、滞在する家族を訪ねました。
ハイチ人のヨルニック・ジョンさん。

ヨルニック・ジョンさん
「これがTPS(一時保護資格)の文書です。
私たちの面倒を見てくれる国があって、とても安心しました。」

2010年、家族旅行でアメリカに滞在中、母国のハイチで大地震が発生。
ヨルニックさんは「帰国が困難になった」とTPSを申請し、滞在が認められました。
その後、アメリカで末の娘を妊娠し、出産。
早朝から深夜まで3つの仕事を掛け持ちしながら、8年間、家族7人でアメリカで生活の基盤を築いてきました。

ヨルニック・ジョンさん
「ここが私たちの居場所です。
家を買う手続きもしていました。」

ハイチには近い親類もいない上、治安も衛生状況も改善されていないとして、すべてを捨てて帰国することはとてもできないと考えています。

ヨルニック・ジョンさん
「私は犯罪者ではないし、税金も払っているのに、トランプ大統領の演説はうそでした。」

ヨルニックさんが何よりも心配しているのが、唯一アメリカ国籍を持つ末っ子のラグランダさんのことです。
ラグランダさんにとっての母国はアメリカで、今の暮らしを守りたいと願う一方、強制送還されて離れ離れになるのではないかと不安を募らせています。

ヨルニックさんの末娘 ラグランダさん
「(大統領に)“追い出さないで”と言いたいわ。
ここが大好きだから。」

ヨルニック・ジョンさん
「ここが私たちの居場所なんです。」

ヨルニックさんの末娘 ラグランダさん
「うん、私も残りたい。」

この1年、一貫してきたトランプ政権の厳しい移民政策。
アメリカに見切りをつけ、みずから出て行こうという移民の動きも続いています。

須田正紀記者(アメリカ総局)
ニューヨーク州の北部です。
この道路なんですが、あちらで終わっています。
その向こうはカナダです。
この国境を歩いて越えていく人たちが後を絶ちません。」

国境に向かって走ってきた1台のタクシー。
国境の一歩手前で止まり、大きな荷物を下ろしているのは中東イエメンからの移民の人たちです。

「なぜアメリカを出るのですか?」

イエメンからの移民
「なぜって?ビザの期限が切れるからさ。
更新できないんだよ。
イエメン人へのビザはもう出ない。
停止になったから。」

現場には、ボランティアで防寒具を手渡す地元住民の姿もありました。

地元住民
「移民がアメリカから出て行くなんて、見たことありません。
とても衝撃的です。」

移民の人たちを乗せてくるタクシー運転手も、複雑な心境を吐露しました。

タクシー運転手
「快くは思わないね。
アメリカは弱い者にとって自由の国であるはずだ。
アメリカは移民が作った『チャンスの国』だろ。」

取材したおよそ10時間の間に、13組が次々とカナダへと国境を越えていきました。
トランプ政権の発足から1年。
「アメリカン・ドリーム」を求める人々を世界中から引きつけてきた移民大国・アメリカの姿が崩れつつあります。

TPS打ち切り 米社会の受け止め

増井
「ここからは取材にあたったアメリカ総局の須田記者に聞きます。
TPSの打ち切り、移民の間では不安と反発が広がっているようですが、アメリカ社会全体ではどう受け止められているのでしょうか?」


須田記者
「意見は対立しています。
トランプ政権は、対象国の社会情勢が安定したことや、生活の質が大幅に改善されたことなどを打ち切りの理由に挙げ、支持者を中心に理解を示す人もいます。
一方、人権団体や医療支援団体などは『治安や衛生状況、人道状況などが十分改善されていない』と反論しています。
対象者の中には、すでに長年アメリカにとどまり、生活基盤が母国からアメリカに移っている人も多いのが実情です。
対象者から生まれたアメリカ国籍の子どもも27万人以上と推定されています。
TPSの打ち切り決定が今後も続き、対象国が広がれば、『人道上の問題』として非難が高まることも避けられません。」

花澤
「そのような批判もある中でも、あえてこの判断を下した背景には何があるのでしょうか?
トランプ政権の狙いはどこにあるのでしょうか?」

須田記者
「自身が唱える『アメリカ・ファースト』の忠実な実行をアピールする狙いがあると思います。
NHKが去年、11~12月にかけてアメリカで行った世論調査ではトランプ政権の移民の規制強化について、『支持する』が47%、『支持しない』が49%と、およそ半数が支持しているんです。

背景には、白人が移民に仕事をとられていると感じたり、人種別の人口構成が変化し、2055年までに白人の比率が50%を切ると予測されることに不安や危機感を感じ、反移民感情が顕在化していることがあると思われます。
こうした層の多くはトランプ大統領の支持者とみられ、トランプ政権は移民を規制する政策を次々と打ち出すことで、支持をつなぎ止めようとしているとみられます。」

“移民大国”はどこへ

増井
「トランプ政権1年で、すでにアメリカは大きく変わりつつあるように見えますが、移民大国アメリカはこれからどうなっていくのでしょうか?」

須田記者
トランプ大統領は今月、支持者向けのメールで移民政策への見解を示しました。
その文面には、『政治家はこれまで“思いやりある”移民制度改革を議論してきたが、それはアメリカ人労働者にとっては“思いやりゼロ”のものだった。アメリカ市民への愛を見せる改革を行う時だ』とあります。
移民や難民に厳しい政策をさらに進めようという意欲がうかがえます。

ただ、こうした政策が続いた場合、移民の力を活用することで成長してきたアメリカ経済にプラスとなるのか、トランプ大統領の支持者の恩恵につながるのかどうかは、正直まだ分かりません。
カナダへと国境を越えるナイジェリア出身の女性に『アメリカで希望は感じないのか?』と聞いたところ、即座に『ない』と答えたことが印象に残っています。
アメリカは変容し、もはや『移民大国』という枕詞は似つかわしくないという段階まで来ているのではと感じます。」

増井
「アメリカは移民が作ったチャンスの国、希望があってほしいと思いますが、一方でどこまで受け入れればいいのかという問題は、難しいですね。」

花澤
「そもそもアメリカ国民のほとんどが移民だったり、移民の子孫であるわけです。
ただ、これはいいか悪いかではなく、不法移民に不利益を受けているとか、アメリカの文化やアイデンティティーが侵害されていると感じている人、不満を持っている人がそれだけいたということの表れですよね。
トランプ大統領自身は、厳しい移民政策を掲げて当選し、その公約を守っているという形です。
移民政策、『アメリカ・ファースト』というメッセージ、どれも背景には中低所得層の格差などへの不満があります。
さらに中国などが台頭して、圧倒的な超大国という余裕をアメリカが失ったことが、その不満をいらだちに変えています。
トランプ大統領の数々の政策は、この不満といらだちに応えているもので、不満を放置してきたこれまでの政治のツケともいえます。
アメリカ国民の不満がある限り、トランプ大統領は今後もこの人々に応える政策を続けていくことになりそうです。」

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