原理講論を読む

日常生活の中で 考える糸口を求めて

カズオ イシグロのノーべル文学賞を祝って

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わたしは彼の作品を読んだことがない。

ただ、かれの小説をもとにし作られた映画を見たことがある。

「わたしを離さないで」という映画であった。

本当に胸が痛くなる切ない物語である。

少年少女たちは皆クローンであり、彼らは自分の臓器を病人に提供するために育っていく。心がないクローン?

FOXのサイトの物語の説明は

外界から隔絶した寄宿学校ヘールシャムは、他人に臓器を“提供”するために生まれてきた〈特別な存在〉を育てる施設。キャシー、ルース、トミーは、そこで小さい頃から一緒に過ごしてきた。しかしルースとトミーが恋仲になったことから、トミーに想いを寄せていたキャシーは二人のもとを離れ、3人の絆は壊れてしまう。やがて、彼らに逃れようのない過酷な運命が近づく。ルースの“提供”が始まる頃、3人は思わぬ再会を果たすが……。

 

普通の人間の世界ではもうとっくに、真実の愛などがあることを信じるものはなくなっている。

イシグロの小説では、人間もどきのクローンの方にその真実が存在している姿を描いて、われわれに問うているかのようだ。

 

このようなSFの世界でしか愛は存在することが出来ないう時代である。

同様なテーマを描いたSF映画には、「アイランド」があった。

これも物悲しい話であった。

やはりもともとの人間が病気になったときのために創ったクローンが、主人のために臓器移植を自分がするためだけの命であることを知り、秘密時に囲われ育てられているところから脱出していくお話。

そこにやはり主人公たち男女の愛の話も交えていく。

 

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 われわれが生きている現代は真実の愛をテーマにすることが現実味を失っている時代だと思う。

そこで小説や映画によく使われるのが、時代設定である。

今の時代では現実感が失われてはいるものの、ずっと昔のことであれば受け入れやすいからである。

わたしが映画でそのような設定を感じさせられたのは、「フォエバー ヤング」というメル ギブスン主演映画であった。

1992年の作品だから、もうこの頃にはもう永遠の愛をテーマにした作品は、多くの人びとにとっては「臭い」映画になっていたのだと思う。

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主人公と婚約者はレストランで別れたが、先に出ていった彼女は交通事故にあってしまう。窓際からそれを知った彼は駆けつける。

病院に運ばれた彼女は命を失うことは免れたのだが、植物人間となって意識を取り戻すことはほとんど絶望的になっていた。

彼は途方に暮れて、自暴自棄になって軍の実験に志願する。

生きたまま冷凍になって保存される実験であった。

生きていくことの辛さから逃げるためだった。

戦争が始まり、彼の収まった実験機材のことは忘れ去られ多くの年月を経た。

そこにいたずら少年たちがやってきて機材の蓋を開けてしまった。

ここから浦島太郎のような話が始まる。

やがて彼は殻が愛した女性が今も生きていることを知った。

ところが、若いときのままに保存されていた彼の体に次第に異変が現れる。

どんどん自裁の年齢に体が老いていく。

そうした状態の中で、少年と昔の軍用機を拝借して、彼女が住んでいるところまで飛行する。

若いときに抱いた思いで、老いた二人が再会するシーンが美しい。

 

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さて、「わたしを離さないで」に戻ろう。

 正常な人間のほうがむしろ異常であり、

特異な人間のほうがよっぽど正常なのかもしれないという作品の構図は

人間の情操に訴えるので、単に倫理からクローンの問題を提起するよりも遥かにその問題を身近に感じさせてくれし、考えさせてくれる。

また、映像表現になればなおさらのことだ。

勿論、小説に描かれた世界をどの程度映像表現で可能にすることが出来たかは問題にされるかもしれない。

ただ、正確な小説の再現ではなくとも、作者が訴えたかった、あるいは感じていると思われる問題意識を共有できれば、その意味でこの映画は成功していると言えるのではないだろうか。

 

iPS細胞の発展が報道されることがある。

コストのことを考えると自分ではなく他人の細胞から培養して大量生産化たほうが安上がりであろう。

今後はさらに最先端の科学と倫理の問題を扱った小説や映画が発表されることを期待したい。

人間は何者で、何を世界にし得るのか?

はたしてそれを創造主を抜きに考えることができるのだろうか?

 

 

 


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