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プライマリーバランス亡国論に関する記事 

【藤井聡】「プライマリー・バランス亡国論」、その7つの理由 | 「新」経世済民新聞

より引用

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From 藤井聡内閣官房参与(京都大学大学院教授)

 

この度、「プライマリー・バランス亡国論」という書籍を、出版することとなりました。
https://www.amazon.co.jp/dp/4594077323

今、日本が採用している「プライマリー・バランス(基礎的財政収支)」の「制約」がある限り、この国は確実に亡国の憂き目にあう――それがこの本の主張ですが、なぜそう主張できるのか、について、その「7つの理由」をご紹介したいと思います。

(1)PB制約のせいで「デフレ」が続く(そして、貧困・格差社会が拡大する)
第一に、このプライマリー・バランス制約(以下、PB制約)がある限り、デフレは脱却できません。

そもそもこのPB制約とは要するに、「政府は、税収の範囲で、支出しましょう」というもの。

ですから、デフレで税収が少ない時代――には、支出がどんどん削られていきます。

ですが、デフレというのはそもそも「内需(消費や投資)が冷えこんでしまう現象」で、それを脱却するには「内需を拡大していくこと」が必要不可欠――なのに、政府の支出を削っていけば、デフレから脱却できるはずはない、ということです。

つまり、今日のデフレの最大の原因は、「PB制約にあり」というわけです。

結果、PB制約のせいで、国民は貧困に苛まれ、格差社会が広がっていく――というわけです。

(2)財政が悪化する
「PB制約」は財政健全化のために必要だ、と信じられています。

影響力のある実に多くの経済学者、エコノミスト、政治家、官僚の皆さんが、この説を信じています。というよりも彼らは、PB制約を守ること、イコール、財政再建だ、と考えている節すらあります。

しかし、これは完全な間違い。

そもそも、財政悪化の原因は、「デフレ」です。

日本は98年にデフレ化するのですが、その前後で、国債発行額はナント三倍近くに跳ね上がり、20兆円近くも増えています(10年平均が13.1兆円→32.4兆円)。デフレになれば、あらゆる経済活動が停滞し、税収が激減するからです。

 

 

これが日本の「財政悪化」をもたらしています。

そして、「PB制約」はデフレを導きますから、「PB制約が財政悪化を導いている」という次第です。

それは、商売人がケチケチ(=PB改善)すれば、「目先の倹約」はできても、お客さんをどんどん失って、結局「貧乏」になる――という、至って当たり前の普通の話なのです。

(3)産業競争力や労働生産性が低下する
昨今、とかく「労働生産性の向上」や「産業競争力の強化」が必要だ、と言われるようになりました。

ですが、「生産性」が落ちて「競争力」が低下している最大の原因もまた、デフレなのです。

「産業競争力」の最大の源泉は、各企業の「投資」。

しかし、デフレであれば当然「投資」は冷え込みます。

しかも、「PB制約」があれば「政府」もまた投資しなくなります。実際、デフレになってから、日本の政府による投資は半分以下になりました。
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/5307

このままでは、私たちの社会を支えるインフラの「維持」すら不可能となります。そうなれば、私たちの社会の国際競争力はさらに一気に凋落するでしょう。

さらには、デフレになれば「科学技術力」も低下します。これが日本の産業競争力を根底から衰弱させます。
https://38news.jp/economy/10268

つまり、PB制約は、デフレを導いて民間投資を冷え込ませると同時に、直接的に政府投資を冷え込ませると共に、科学技術力の凋落も導き、このトリプル効果によって競争力を低下させているのです。

さらには、「労働生産性」が低いのも、デフレが原因。

そもそも労働生産性は、「労働1時間あたりが生み出した付加価値の合計」。そして、付加価値の国民全体の合計がGDP。したがって、GDPが減れば労働生産性は下がって、増えれば上がる、のは当たり前です。

だから、PB制約がデフレを導き、GDPの縮小をもたらし、最終的に、日本の今の低い労働生産性の低下をもたらしているのです。
https://38news.jp/economy/10172

つまり、経産行政で今、最も重視されている「労働生産性」や「産業競争力」を、PB制約は実に様々なルートを通して凋落させているのです。

(4)地方が衰退する
シャッター街」や「地方消滅」というキーワードに象徴されるように、今全国各地の地方衰退は深刻な水準に達しています。

これには二つの重大な原因があります。

第一の原因は、デフレ。デフレだから皆、相対的にビジネス環境がよい、都会に人も企業も流れていくのです。結果、デフレになれば東京一極集中と、地方の衰退が同時に加速していくのです。
http://trans.kuciv.kyoto-u.ac.jp/tba/archives/138

もう一つの原因は、地方のインフラ不足。新幹線も高速道路も、首都圏、三大都市圏、太平洋ベルトには豊富に作られていますが、地方部にはほとんど作られていません。これが、地方の衰退を加速させているのです。
https://38news.jp/archives/04642

そして、PB制約はデフレ化と、地方へのインフラ投資の抑制の双方を導いています。このダブルの効果で、PB制約は地方を疲弊させ続けているのです。

(5)国防・防災力が下がる
PB制約は、直接的な政府活動を著しく制約します。結果、PB制約のせいで、防衛投資や、防災対策・強靭化投資が不十分にならざるを得ません(とりわけ、社会保障費が拡大の一途を続けている今日、PB制約による防衛・防災投資の抑制効果は深刻です)。

結果、PB制約のために、巨大災害や極東有事などが生じた時、大量の人命が失われ、二度と回復できないほどの深刻な被害を受ける危機が高まっています。つまり、PB制約は、日本が今までのように、「主要先進国の一員」で存在し続けられないような危機を拡大させているのです。

しかも、日本の巨大な経済力や、今よりも大きな国防力があれば、日本への国際的協力や連携同盟要請が拡大していくと同時に、仮想的な敵国からの攻撃リスクを抑止していくことも可能となります。

しかし、PB制約によって、デフレ化して経済力が衰退し、国防力も縮小していけば、仮想敵国からの攻撃リスクはさらに拡大します。例えば、日本の経済力が中国よりも圧倒的に大きかったデフレ化前の時代には、尖閣問題は皆無であったことを思い起こせば、相対的国力と有事リスクは直接関連していることは明白です。

つまり、PB制約は単に軍事的国防力を低下させているだけでなく、有事を呼び込むリスクそれ自身も拡大させているのです。

(6)文化が衰弱する
PB制約は、こうして私たちの命や財産の安全保障を棄損しているのみならず、私たち日本人の文化や教養も毀損しています。

そもそも文化もまた、「投資」によって維持され、発展していきます。

しかし、PB制約によってデフレが継続すれば、官も民も投資を縮退させますから、文化が衰退することは避けられません。特に、PBによって直接活動が抑制されている政府の文化活動は大いに縮退します。

「衣食足りて礼節を知る」―――と言われますが、デフレで衣食が不十分になれば、金儲けのために礼節、さらには、文化や教養があらゆる側面で蔑ろにされてしまうのです。

例えば、この報道は、そうした日本の文化や教養力の衰弱を端的に象徴するものと言えるでしょう。
http://www.sankei.com/politics/news/170417/plt1704170009-n1.html

つまり「PB制約」は、私たちの経済的豊かさや安全保障を毀損しているだけでなく、日本人が日本人であるための文化や教養すら、毀損し始めているのです。

(7)日本が後進国化する
PB制約を日本政府が持ち続ければ、デフレは確実に継続します。その結果、このままデフレが続けば、かつて2割弱もあった日本のGDPの世界シェアは近い将来、メキシコ程度の水準にまで凋落することは避けられません。
https://38news.jp/economy/07893

同時に、産業競争力も生産性も、はては文化の力それ自身も衰微の一途を辿っています。

これはつまり、日本が近い将来に「後進国」の地位に凋落することを意味しています。

しかも、私たちは自然災害や軍事的な危機に対する強靱性も衰弱し続けています。したがってひとたび何らかの「有事」があれば、十年、二十年という年月を経ずとも、近い将来、私たちは一気に「後進国」に凋落することも十分に予期されるのです。

つまり、PB制約を日本が持ち続ける限り、「日本が後進国化」してしまうことは、避け難い、確定的未来なのです。

・・・・

以上、PBが如何に日本の「亡国」を導く恐ろしい制約であるかを、ここでは簡潔にまとめました。

読者の中には、ここでの指摘は、過度に悲観的なものではないか――と感じた方もおられるかもしれません。しかし決してそうではない、という一点を、最後に強く強調しておきたいと思います。

なぜなら、今日本はデフレであり、それによって確実に後進国化しつつあり、周辺には北朝鮮、ロシア、中国、アメリカという極めて好戦的な核保有国に囲まれており、しかも、世界中どの先進国にも存在しない、深刻な巨大自然災害の危機に直面しているのです。

ところが、PB制約があれば、政府は最悪の諸事態を避けるための、

「自由」

が奪われてしまうのです。そうなれば、数々の危機に翻弄され、亡国の憂き目にあうことは避けられません。ですが、PB制約が解除されれば、政府は再び、

「国を救うための自由」

を手に入れることができるのです。

そうした自由を私たち日本国家が手に入れるためにも――まずは、「PBによる亡国」をしっかりとご理解いただきたいと思います。

PS1 「PB亡国論」にご関心の方は是非、下記をご一読ください。
https://www.amazon.co.jp/dp/4594077323

PS2 「PB亡国論」について、三橋貴明さんと対談いたしました。ご関心の方は是非、下記ページをご覧ください。
http://www.38news.jp/sp/amazoncp_fujii/index.php

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【藤井聡】「プライマリー・バランス亡国論」を日本に警告する英フィナンシャル・タイムズ紙 | 「新」経世済民新聞 より引用

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From 藤井聡内閣官房参与(京都大学大学院教授)

英国の経済紙、フィナンシャルタイムズが、

「静かな、しかし実質的なアベノミクスの成功」
The quiet but substantial successes of Abenomics

と題したコラムを配信しています(2017年5月1日付け)
https://www.ft.com/content/62cc7d40-2e65-11e7-9555-23ef563ecf9a

拝読して驚いたのですが、筆者が、今、強く主張している「プライマリーバランス亡国論」と「全く同じ」議論を、フィナンシャルタイムズが主張しています。

このコラムではまず、「アベノミクスがはじめられて4年もたつのに、物価上昇率は日銀の目標に届いていない。アベノミクスは失敗したのだ」という批判がしばしば見られることを指摘。

しかし、その批判は、全く間違っている、と批判します。

そもそも、2013年にアベノミクスが始められましたが、それ以後名目成長率は確実に改善しています(平均成長率は、13年以後2.08%ですが、それ以前の12年間は-0.33%でした)実に、2.43%も向上しています)。

 

 

マーケットでも、この「デフレ完全脱却」に伴って必然的に発生する「人手不足」問題に対応するために、「過剰サービスの供給」を取りやめる、という形での「実際上な価格の上昇」(※)を図っています(reducing their lavish service standards rather than raising prices)。

(※ ここで「実際上の」と記しているのは、今の多くの企業の戦略では、消費者が払う「値段」そのものは変わらないからです。今企業は物価を直接上げるかわりに、過剰サービスを取りやめることで、「特定の質の財・サービスの価格」の引き上げを行っているのです。例えば、100円のポテトチップ1袋を、かつては100gで販売していたのを、90gで販売するようになった、ということです。)

例えば、多くのレストランは24時間営業を取りやめています(scrapping 24-hour opening)。ヤマト運輸は、取扱量を、自身の供給能力で対応可能な範囲まで縮減させようとしています(cut volumes to a level its network can handle)。つまり、経営者たちがいま頭を使い、労力を投入しているのは、「コストカット」でなく、「人材確保」なのです(Rather than cutting costs, chief executives spend their time working out how to hire and retain staff)。

こうした「人材確保」のための「過剰サービスの各企業の努力は、必然的に、実際上の「賃金上昇」と「物価上昇」をもたらします。したがってそれは早晩、「消費拡大」を促し「投資拡大」を促進します。つまりこの流れは間違いなく、「経済の好循環」の到来の契機となっているのです。

つまり、いま日本では、マクロレベルでのGDP成長率の上昇と、ミクロレベルでの「過剰サービスの縮小=実際上の物価上昇」が起こり始めているのです!

・・・・

しかし、この流れは、まだまだ確実なものではありません。世界経済がこれからどうなるか、まだまだ不透明ですし、なんと言っても、2014年の消費増税が、日本経済に巨大なブレーキをかけてしまっているからです。

このFT紙の主張の最大のポイントが、実はここにあります。この指摘は、このコラムの中でもとりわけ重要な意味を持つものですから、いくつか解説をはさみながら、その翻訳をそのまま掲載したいと思います。

『成功へのすべての障害のうち、最悪だったのは「2014年の5%から8%への消費増税」という「自傷行為」であった。

本来、理論的にはアベノミクスは「財政政策」を含むものである筈だった。しかし実際には、この財政拡大は2013年における「短期間」でしか推進されなかった。それ以後の4年間は、日本政府は激しい「財政引き締め」を行ったのだ。これはもちろん、物価上昇の重大な障害となった。

(Of all the obstacles to success, the worst was self-inflicted: a 2014 rise in consumption tax from 5 to 8 per cent. In theory, Abenomics involved a fiscal stimulus. In reality, this only ever happened for a brief time, in 2013. Over the past four years, Japan has significantly tightened fiscal policy. The predictable result was to halt momentum towards higher prices.)」

まさにおっしゃる通り。この指摘は、アベノミクスは本来「財政政策」を含むはずなのに、それをやったのは最初だけで、それ以後まとも進められていない、むしろ「緊縮」財政になってしまっている、つまり、アベノミクスの本来やるべきことを政府はやらなかったのだ――というご指摘です。おっしゃる通り、としか言いようがありません。

しかし、安倍内閣は今まさにこれから、変わろうとしている、とFT紙は論じます。

『ところが今、安倍政権はこうした自らの間違いをハッキリと認識し、「財布の紐」を少し緩めた。

安倍政権は今後、「愚かで場当たり的な財政目標」を「無視」して、インフレになるまで(=デフレ完全脱却が果たせるまで)、この「財政拡大」を続けなければならない。

過去4年間、安倍政権の経済政策には「失敗」があった事は確かだ。しかし、その失敗は、「アベノミクスがやらねばならない事をやらなさすぎたから」もたらされたものなのだ。断じて「やり過ぎ」だったからではないのだ。

(Recently, the Abe government has realised its mistake and loosened the purse strings a little. It should continue to do so, ignoring foolish and arbitrary fiscal targets, until inflation finally does pick up. There have been policy failures over the past four years, but they all involved too little Abenomics, not too much.)』

これもまた、おっしゃる通り!

ここで一番重要なのは、アベノミクスの成功にとって必須な「財政拡大」を図るために、

「愚かで場当たり的な財政目標」を「無視せよ!」
(ignoring foolish and arbitrary fiscal targets)

と主張している点。

言うまでも無く、「愚かで場当たり的な財政目標」とは、「2020年プライマリーバランス黒字化目標」のことです。

つまり、筆者がここ最近一貫して表明している、「正々堂々とPB目標を取り下げよ」という主張と同一の主張を、FT紙も、そのコラムの中で大々的に主張している、という次第です。

・・・ですが、これは何も不思議な話ではありません。そもそも、真実は一つ。「日本からみようが英国から見ようが、誰が見たって白は白、黒は黒」だからです。

アベノミクスが完全なる成功にたどり着けていないのは、すなわち、いまの日本が本格的に力強く成長できないのはプライマリーバランス目標という「愚かで場当たり的な財政目標」を政治的に保持し続けているからだ、というのは、客観的な状況分析ができる者が見れば、誰が見てもたどり着く、「当たり前の結論」なのです。

いち早く我が国政府においても、この「真実」に基づいた「政治的決定」が下されんことを、心から祈念したいと思います。

PS1 「プライマリー・バランス亡国論」にご関心の方は、是非下記をご一読ください(ようやく来週、販売です)。
https://www.amazon.co.jp/dp/4594077323

PS2 「プライマリーバランス問題」について、三橋さんとたっぷりと対談いたしました。ご関心の方は是非、下記ページをご参照ください。
http://www.38news.jp/sp/amazoncp_fujii/index.php

 

 


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