原理講論を読む

日常生活の中で 考える糸口を求めて

EUの航空機産業に部品供給をして転機を狙う日本企業 そのとき神戸製鋼問題が発覚した

 

EUの航空機産業を狙う日本メーカーの新戦略 | 国際報道2017 [特集] | NHK BS1

より引用

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アメリカ トランプ大統領
「アメリカ製を買い、アメリカ人を雇え。
アメリカ人によって作られた、アメリカ製品が欲しい。」


アメリカ・ファースト」を掲げ、保護主義的な政策を推し進めるトランプ大統領。
こうした中、日本の企業が今、戦略の見直しを迫られています。
一方、ヨーロッパでは、新たなビジネス・チャンスが生まれました。

日本とEUがEPA=経済連携協定の大枠合意に至り、輸出が大きく増えるのではないかと期待されています。
中でも注目されているのが、これまでほとんど取り引きがなかった航空機産業です。

エアバス ポシェ副社長
「われわれは、イノベーションとウィンウィンの関係を求めている。
日本の技術が欲しい。」


ヨーロッパへの進出を目指す、日本企業の新たなうねり。
その最前線に迫ります。

花澤
「アメリカのトランプ大統領が保護主義的な政策を次々と打ち出す中、日本のメーカーが新たな市場を模索する動きが広がっています。
中でも注目されているのが、ヨーロッパの航空機産業への進出です。」


松岡
「世界の航空機産業では、2大メーカー、アメリカのボーイング
そして、ヨーロッパのエアバスがしのぎを削っています。
日本のメーカーは、これまで主にボーイングと取り引きしてきました。
主翼や胴体などを製造し、構造部品のおよそ2割を供給。
輸出額は、年間6,000億円近くに上ります。
一方、エアバスとは、これまで取り引きがほとんどありませんでした。
エアバスが、多くの部品をヨーロッパ内で調達していたからです。


しかし、今年(2017年)7月、日本とEUはEPAの交渉で大枠合意に至り、日本の工業部品の関税が撤廃されることになりました。
日本の工業部品の価格がヨーロッパでぐっと安くなるため、日本企業とエアバスが急接近しようとしています。
ビジネスチャンスを求めて、新たにヨーロッパへの進出を目指す日本企業を取材しました。」

EUの航空機産業を狙え 日本メーカーの新戦略

リポート:松崎浩子記者(国際部)

松崎浩子記者(国際部)
「日本の高い技術に目を止めたエアバスと日本企業の商談会が行われています。」

先月(9月)、ヨーロッパの大手航空機メーカー「エアバス」と日本企業の商談会が開かれ、全国から高い技術力を誇る100社あまりが参加しました。

フランス 航空当局 担当者
「日本企業とエアバスが、より幅広く、より深く、緊密に仕事をしていくことに興味があります。」

この商談会を主催したのは、経済産業省です。

経済産業省 航空機武器宇宙産業課 畑田浩之課長
エアバス側から、日本にたくさんいい技術を持った企業があるので、新しい飛行機、新しい付加価値を持った飛行機を造りたいという関心を寄せていただいた。
非常にいい参入のチャンスになると思います。」

商談会に参加した金属加工メーカーの野口洋さんです。
海外の企業との交渉を担当しています。


野口さんの会社の工場です。
国内外で1万5,000社の取引先を持ち、業界で世界2位のシェアを誇っています。
会社の強みは、1,000分の1ミリ単位で、さまざまな形の金型を削り出す技術です。
去年(2016年)3月、アメリカに販売拠点を設けることにしましたが、その後、トランプ大統領が就任。
保護主義的な政策を打ち出したため、売り上げが伸び悩むのではないかと不安を感じています。

金属加工メーカー 海外営業担当 野口洋さん
「彼(トランプ氏)が当選するとは、誰も思ってなかった。
今後どうなるかわからないので。」

こうした中、日本とEUがEPA=経済連携協定の交渉で大枠合意。
工業製品にかかる関税が撤廃されるため、ヨーロッパへ輸出がしやすくなるのではないかと、期待を寄せています。

金属加工メーカー 海外営業担当 野口洋さん
アメリカだけでなく、ヨーロッパの販売ルートを強化しようと思ってます。
世界でいったら、かなり大きなマーケットになります。
そういう所に参入していきたい。」

新たな市場を模索する理由は、もう1つあります。
ガソリン車に代わって電気自動車が普及し始めていることです。
会社の売上げの半分近くを占める自動車関連の部品の中には、今後、電気自動車に使われない部品も出てきます。
そのため、新たな分野の開拓が課題となってきました。

そこで、目をつけたのが航空機産業です。
航空機の部品は、数百万点に及びます。
自動車より格段に多いため、部品の供給を増やせると見込んでいます。

金属加工メーカー 海外営業担当 野口洋さん
「航空機部品は、加工で作るものが多いし、変わった材料の部品が多いので、航空機産業まで(広く)できれば、当社のビジネスが柔軟に展開できると思ってます。」

高い技術力を持つ日本企業の動きに、エアバスも大きな期待を寄せています。

エアバス ポシェ副社長
「われわれは、イノベーションとウィンウィンの関係を求めている。
日本の技術が欲しい。」


エアバスとの提携に、すでに成功した企業もあります。
東京・町田にある社員50人のプリンター・メーカーです。




プリンター・メーカー 村井秀世社長
「主にトラックをターゲットにして、プリンターをお客さまにお出ししてましたけど、(エアバスからオファーがあり)正直びっくりしましたね。」

エアバスが導入するのと同じタイプの塗装プリンターです。
独自に開発した技術を使って、少量のインクですばやく塗装できます。
航空機の塗装は、これまで人の手で行っていたため、時間がかかる上、塗装の膜が厚くなり、機体の重量がかさむ欠点がありました。
この機械を使えば、作業効率や燃費の改善にもつながるといいます。

プリンター・メーカー 村井秀世社長
「これはフランクフルトの工場の中の写真です。」

エアバスの受注が決まったのは、今年3月。
今後、1機2,000万円の大型プリンターを、フランスとドイツの工場に10台近く納入することになりました。

プリンター・メーカー 村井秀世社長
「ほかの航空機会社でも、この機械を使ってという話は出てきております。
もっともっといろんな場所で使っていただけるかなあと考えています。」

こうした会社に続けと、商談会に臨んだ金属加工メーカーの野口さん。

エアバスの講演が終わるやいなや、幹部の元に駆け寄り、早速名刺を交換。
手応えをつかんだようです。

金属加工メーカー 海外営業担当 野口洋さん
「まだまだうちは課題が多くて、どういうアプローチをしないといけないかとか、そういうところの話を聞けたので、今後、それを生かし、参入の糸口になればなと思っています。」


航空機産業 どこまで成長?

花澤
「ここからは、取材をした国際部の松崎記者に聞きます。
航空産業への期待感は大きいようですが、実際のところ、今後どのくらい成長すると見込めるんでしょうか?」

松崎浩子記者(国際部)
「途上国で航空機の利用頻度が増えることですとか、あとはLCCの需要の伸びに伴って、大きな成長が見込まれています。

現在、日本の航空機関連の生産額はおよそ1兆7,000億円ですが、今後20年で3兆円を超えるという試算もあります。
さらに、日本とEUのEPAが発効すれば、アメリカに次ぐ経済規模のEUで自由貿易ができるわけですから、航空機関連の部品の取り引きも活性化することが予想されます。

現在、日本はアメリカやEU各国と比べて圧倒的に生産額が少なく、例えばアメリカと比べて、日本はまだ10分の1程度です。
このため、日本の航空機産業は、今後さらに成長の余地がある分野ともいえます。」

米からEUへ 移るか

増井
「今後、日本の企業は、アメリカからEUに軸足が移していくことになるんでしょうか?」

松崎記者
「そのようなことにはならないと思います。
なぜかといいますと、日本の航空機関連の企業は、アメリカのボーイングとは50年近く繋がりがあり、『ボーイング依存』とも言われるほどです。
切っても切り離せない関係というのは、これからも変わりません。
そのため、軸足が移るというより、既存のアメリカの市場に加えて、ヨーロッパにも新たな市場を造りだそうという動きが出ているわけです。
また、これまでボーイングの反発を気にして、ライバルであるエアバスとの取り引きを尻込みする企業もいたようですが、今回の商談会には、これを機にボーイングに加えて、エアバスとも取り引きをしようと考えている企業もいたようです。」

今後の課題は

花澤
「部品メーカーが、アメリカ、そしてヨーロッパ、双方の市場に参入していこうという時に、今後の課題というのは何なんでしょう?」


松崎記者
「いくつかありまして、まず、これまで航空産業に参入していない企業が、エアバスと事業を始める際には、ある程度の初期投資をしなければいけません。
そのため、長年かけて投資を回収しなければならず、ある程度の余力が必要になります。
また、航空機という性質上、安全性を最も重視するため、高い品質を証明する認証を取得する作業が必要になります。
また、すでにボーイングに部品を納めている企業にとっても、エアバスから求められている品質ですとか、部品の作り方がボーイングと異なるなど、違いがあります。
ですから、日本企業が日本とEUのEPAの大枠合意を機に、これらのハードルを乗り越えて、新たな市場に参入できるか、注目していきたいと思います。」

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 安倍政権はEUとのEPAの大筋合意に至りました。

トヨタの生産拠点がアメリカに作られることになり、傘下の部分製造メーカーは新たな顧客の開発に向かわざるを得ません。

そこにEUの航空産業の話が湧き上がってきました。

ところが、神戸製鋼がポカを働きました。

 

神鋼製品にNO! 欧州航空当局が使用停止呼びかけ - Record China より引用

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欧州航空安全機関(EASA)は18日、検査データ改ざんの大規模なスキャンダルが発覚した日本の神戸製鋼所の「締め出し」に着手し、関連企業に神鋼の製品をしばらく使用しないよう呼びかけた。新華社が伝えた。

神鋼の検査データ改ざん問題の調査が進むと、潜在的な被害者は日本企業と外国企業の約500社に拡大し、自動車、鉄道、航空、宇宙など多くの産業に広がった。 

EASAはコメントの中で、「メディアの報道によれば、神戸製鋼所のデータ改ざんは『長年』にわたるもので、対象製品は『幅広い』。そこでEASAは欧州の航空会社にこの問題を注意するよう呼びかけ、『第一段階の提言』を打ち出した」としている。 

EASAは航空機の設計、製造、メンテナンスに携わる企業に「供給チェーンを詳細に検査」して、神鋼の製品が使用しているか、いつ使用したかを確定するよう呼びかけた。同時に、企業に検査結果を顧客と主管部門に知らせることを義務づけた。 

EASAは関連企業に対し、「代わりのサプライヤーがあるなら、神戸製鋼所の製品は基準を満たしていることが確認されるまで、一時的に使用を停止しなければならない」と伝えた。 

神鋼のスキャンダル発覚後、主要産業の管理機関が業界向けにこのような提言を打ち出したのはこれが初めて。 

欧州に航空機製造大手エアバスは、神戸製鋼所から製品を直接調達してはいないが、サプライヤーから提供される製品に神鋼製品が含まれていないか現在調査中」としている。神鋼は昨年7月、着陸装置大手メーカーのフランス・サフラングループにチタン部品の提供を開始し、部品はエアバスの新型旅客機「A350XWB」に使用されることを明らかにした。日本紙「日本経済新聞」の先週の報道では、データを改ざんした神鋼製品は海外企業数十社の製品に使用されており、顧客にはエアバスと米ボーイング社の名前もみえるという。 

米司法省は神鋼製品の米市場での使用状況の調査を始めており、16日には神鋼米国支社に対し関連製品の資料を提出するよう求めた。 

神鋼によると、データ改ざんは10年前に始まり、個人の行為ではなく組織ぐるみの行為だったという。日本メディアは、神鋼の改ざんはこれまで考えられていたよりも長く続いていた可能性があると報じた。 

神鋼は今回のスキャンダルで大きな痛手を受け、株価は年初以来の最高値に比べて約40%も値下がりした。川崎博也社長兼会長も、「(神戸製鋼所の)信用力はゼロに落ちた」と認めている。(編集KS)

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一番ひどいのは、取締役会で不正は報告されていたので川崎会長は知っていたということだ。こうなると、報告以前では不正に関わっていた組織の犯罪行為になるが、報告以後は川崎会長を中心とした全社的な不正行為に発展してしまった。

アウトです。完全にアウト。

せっかく安倍政権がEPAの大筋合意に持っていき、部品メーカーも血の滲む努力に水を差す事になっている。

わたしはMRJに関心を持ってきたが、日本の部品メーカーの抱える問題に着いては以下の記事が参考になった。

 

MRJの納入が延期される原因とは? 将来に向けて見えてきた課題 - MONOist(モノイスト)

より引用

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MRJは型式証明の取得の遅れにより納入時期が何度も後ろ倒しとなっている。民間航空機産業に後発として参入する中で出てきた課題は何か。また、この参入は日本の製造業においてどのような意味を持つのか。世界の航空機開発の動向に詳しい東京大学 教授の鈴木真二氏らに話を聞いた。

[加藤まどみMONOist]
 

 

三菱航空機が開発、三菱重工業が製造するリージョナルジェットMRJ」は、米ワシントン州モーゼスレイクフライトテストセンターにおいて型式証明の取得に向けた試験の真っ最中だ。現在、最初の顧客である全日本空輸ANA)への納入は2020年半ばの予定となっている。MRJの納入は当初の予定より何度も延期されている。その理由は、型式証明の取得に向けた作業が思いのほかスムーズに進んでいないことが大きい。

    米モーゼスレイクテストフライトセンターで各種試験を受けるMRJ。約半世紀ぶりとなる民間航空機産業への参入の道のりは平たんではない(三菱重工業より提供)

型式証明とは?

 航空機を運航する場合、所有者は1機ごとに、登録国において「耐空証明」を取得する必要がある。耐空証明とは航空機の安全性や環境性能(騒音や排気ガス)を保証するもので、自動車でいう車検に当たるものだ。ただし同じモデル(型式)の航空機であれば、耐空検査の一部は共通になる。そこで検査の効率化のために設けられているのが型式証明と呼ばれる制度だ。

 型式証明は、航空機が製造される国において製造者によってあらかじめ取得されている必要があり、さらには使用する国の証明も必要となる。型式証明の内容は国連の専門機関である国際民間航空機関(ICAO)のルールをベースとして国ごとに決められているが、2大航空機メーカーであるボーイングエアバスが本社を置く米国の連邦航空局(FAA)と欧州の航空安全庁(EASA)のものが、事実上の世界標準となっている。そのためMRJの型式証明の審査は、製造国の当局である国土交通省航空局により行われるが、輸出先での使用のため、FAA、EASAも参加して進められている。

 型式証明の審査内容は飛行特性だけではなく、構造強度、装備品と呼ばれる各部品の安全性と環境性能からなる。これらの審査は航空機が完成した後だけでなく、設計、製造の段階から進められる。設計者および製造者は、図面や試験データ、解析データを示してこれらの性能を証明する必要がある。

証明の具体的な方法は示されていない

    東京大学大学院 工学系研究科 航空宇宙工学専攻 教授の鈴木真二氏

 MRJが型式証明を取得する際にはさまざまな問題が出てきたが、大きなものとしては「審査が非常に複雑で、経験者の協力を得なければ対応が難しいと分かったこと。使用実績のある部品に対する考え方が変わってきたこと。また途中で新たに審査項目が加わったことがあります」東京大学大学院 工学系研究科 航空宇宙工学専攻の教授である鈴木真二氏はいう。

 航空機の部品数は100万点にもなり、チェック項目も膨大になる。審査は設計と同時にスタートし、複数の項目が並行して行われる。基準に適合しないことが分かれば設計変更を行うが、直接対象となる部分以外にも変更が及ぶことが一般的である。

 また型式証明の審査といっても、具体的な検査手順や数値基準が示されているケースは少ない。例えば「安全に脱出できるような設備を有すること」「燃料タンク内の難燃化または発火防止手段を講じること」のように、証明方法が具体的ではない場合が多い。国内では解釈や細則が決められているが、新技術などについては国と製造業者が協議しながら証明方法を決めていくことになり時間もかかる。

 さらに、日本には民間航空機開発の全機開発経験がほぼないため、今までFAAなどの証明方法を検討する場に本格的に参加することができなかった。そのため型式証明の全貌を把握することが非常に困難になっている。ルール作りに参加できていない場合、その試験に何とかして対処するしかない。また型式証明は技術的な制度である一方で、各国が有利になるように取り決めることもあるという。また、世界を飛行する航空機には、自国にはない気候や試験設備などを用いた試験などが義務付けられることもある。

 型式証明の取得に対する経験不足を痛感したことから、三菱は海外メーカーでの開発経験者を多く登用した。欧米でも、計画通り開発を進めるためには能力のあるフリーの技術者を一時的に雇用し、多国籍の開発チームを構成するという。ただし後述のように、航空機のような複雑なシステムの設計開発には、仕事を進める際の厳密な明文化が必須となる。日本では文書化するのではなくあうんの呼吸ですり合わせにより進めていく傾向が強い。多国籍の開発チームでも開発を確実に進めるためには、何事についても文書化するなど、これまでの開発方式を改める苦労が伴うのだ。

審査が厳しくなる傾向に

 また、「型式証明の審査自体も厳しくなる傾向にある」(鈴木氏)という。重大な航空機事故が発生すると、その原因究明がなされ、その対策として新たな設計要求が課される。また以前から使われ、安全性は証明済みだと見なされていた部品に対しても、部品の置かれる場所が異なる場合には、新たに搭載するモデルごとに厳密な証明が必要だという流れになりつつあり、改めて解析や試験などの対応が必要になった項目もあるという。

 また開発期間中に項目が変更され続けると、いつまでたっても審査が終わらないため、型式証明書の申請から5年間は新規項目の適用が免除される。だがMRJは型式証明の取得に手間取っており、型式証明の審査を申請した2007年10月から5年を超えてしまった。そのため「燃料タンク内の難燃化または発火防止手段を講じること」のような項目が追加された。また2017年1月の延期の理由の1つとして発表された配線の変更も追加項目に関係する。実際には、新規項目は発効前から議論されているため想定されていたことではあるが、開発の遅れによって審査が複雑になることは間違いない。

日本に航空機産業を育てていくためには

 このような型式証明を巡る問題が明らかになってきているが、一方で航空機産業を育てるという将来に向けた取り組みについても議論が始まっている。その1つが、ニーズとシーズをマッチングさせる場の必要性だ。大学、公的研究機関や中小企業にある優れた技術と、完成機メーカーが必要とする技術をお互いに知る仕組みが今はないという。エアバスボーイングは、中小企業や大学・公的研究機関の技術や人材に対して積極的に結び付きを強めている。実際に日本企業の技術を海外メーカーが先に見つけて独占使用契約を結ぶといった例もある。

 またニーズを示す側は、乗客や操縦士だけでなく、整備士や管制官、航空局など多岐にわたる。このように多くの関係者からのニーズをうまくくみ上げるような仕組み作りも課題になるという。

航空技術者の育成が欠かせない

 現在、主要な民間機のメーカーはボーイングエアバスボンバルディアエンブラエルの4社になる。これらの関係者が口をそろえて言うのが「産学の一貫した取り組みは不可欠」ということだという。ブラジルのエンブラエルは国が主導して戦略的に完成機事業に取り組んできた。初期の航空機がヒットする中で、航空技術者の不足が課題になったという。そこで産学が一体となって人材育成プログラムを作り、計画的に人材を輩出するようにした。航空機づくりはチームプレーになるため、技術面だけでなく、マネジメントやコミュケーション能力など対人面も重視した育成を行っているとのことだ。

 エアバスの本社があるフランスでも、航空宇宙専門教育機関が産業界のニーズにダイレクトに応える教育プログラムを開発、実施している。「エアラインを新たに立ち上げるのでそれに必要な教育プログラム」などにも応えるという。

 またボンバルディアのあるカナダは古くから航空機産業が地域産業として定着しており、この点で日本の参考になると考えられる。カナダでは完成機メーカーと地元企業との共同研究や、大学と地元企業との定期的なプロジェクトマッチングも行っている。なお、どの国においても、産業界と教育・研究機関それぞれの方針を踏まえながら歩調をそろえるのはかなり苦労してきているということだ。

ソフトウェアが今後の課題

 今後の旅客機設計を行っていく上で特に課題になりそうなのが、ソフトウェアの認証だという。日本では自衛隊機の開発は行われているものの、民間旅客機向けソフトウェアの開発経験が皆無に近い状況だ。時間がたつにしたがって劣化し故障するハードウェアとは違い、ソフトウェアは作った時点でバグが潜在している可能性があり、品質管理の方法がまったく異なる。現状はほとんどの装備系統で海外製ソフトウェアを使用し、海外の認証アドバイザーを頼らなければ型式証明を通すことができない状況となっている。国内で十分な対応ができるようになるまでにはかなりの時間がかかるという。

要求機能とコンポーネントの関係を明らかにする必要性

 製品が航空機のように複雑になると、機体全体として求められる機能を実現するために、要求される機能を要素ごとのサブシステムに割り付け、さらに細分化して、設計可能な部品単位での機能に落とし込む必要がある。そして部品を組み上げていく場合には、サブシステムごとに機能が実現できているかを確認していかなければ、全体の機能の達成が困難になる。

 小規模の製品であればプロジェクトマネジャ1人で全体像を把握できるが、非常に多くの要素からなる航空機では不可能だ。そのためMRJでは、システムエンジニアリングのV字プロセスによる設計開発手法を取り入れている。V字プロセスでは要求される機能を設計から製造、試験までのプロセスにおいて細分化し、設計開発計画を立てるとともに、検証する方法を事前に準備する。これにより、型式証明における要求項目とそれに関係するコンポーネントとの関係が明確になり、また新しい要求項目があった場合でも、見直す設計範囲を最小限に済ませることができる。

 このことは、V字プロセスが、航空機の運航開始後や次の機体開発にこそ有用になることも意味している。すなわち、運航開始後に万が一問題が生じた場合、機能の割り付けが明確になっているため、迅速な問題解明が可能となる。また、次の機体開発では、既に証明された設計に関しては簡単に応用できるため、開発期間を短縮することが可能となる。ソフトウェアに起因する事故が増えるなど品質管理の強化が課題となっている昨今、膨大な部品からなる航空機におけるV字プロセスの取り組みを成功させることは、他産業への技術波及効果という点でも大きな意味があると考えられる。

なぜ今、民間航空機へ参入するのか

    東京大学 総括プロジェクト機構 航空イノベーション総括寄付講座 特任教授の渋武容氏

 東京大学 総括プロジェクト機構 航空イノベーション総括寄付講座の特任教授である渋武容氏は「日本では物や人の行き来に航空機が不可欠です。今は陸海空の輸送手段のうち1つだけ国産ではありませんが、その状況が当たり前だと思われています。ですが自国での利用を前提とした開発、日本語での購入やサポートが行えることは、乗客やエアラインにとって大きなメリットになるはずです」と話す。

 また航空機産業に限らないが、完成機を作る方が部品のみを手掛けるよりも付加価値は高い。ブラジルは完成機事業に絞って航空機産業に参入しており、実は国内のティア1(1次下請け)サプライヤーはほとんどいない。「完成機事業をやらなければ、航空機産業に参入する意味がない」というのがブラジルの考えだという。

 また渋武氏は、「完成機事業を手掛けることは、国際的に通用する型式証明技術を獲得することであり、これがなければボーイングエアバスといった完成機メーカーの下請けのような立場でしか航空機産業が生きる道はありません。そして完成機事業を継続することは、型式証明のルールを決める国際的なグループに本格的に参入する道が開けるということでもあります」と述べる。

 一方、完成機事業はどの国においても開始から投資回収までに数十年を要する場合がほとんどである。企業トップが何代も変わる長さであることから、駅伝にも例えられる。完成機事業をうまく育てていくためには、基本となる機体の投資回収が終わる前に、派生機や次世代機の開発を進めることが必須になる。また開発自体は企業の活動だが、一企業だけで試験設備や人材養成などのさまざまな課題に対応するのは不可能だ。そのため各国が実施しているように、国や自治体をあげてのサポート体制が欠かせない。

 民間機産業への参入は息の長い取り組みだ。大きな山場であった飛行試験はすでにスタートしているものの、型式証明の取得までにはなお困難が予想される。また証明の取得はゴールではなくスタート地点ともいえる。完成機メーカーに必要な知見が蓄積されて次世代機の開発に引き継がれるとともに、複雑かつ高い安全性が求められるシステムの設計開発手法が他産業に新たな好影響をもたらすことを期待したい。

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それでなくとも航空機産業に参入する部品企業としての経験と文化もないなかで、

神戸製鋼事件が起こったことは日本の成長に打撃を与えたと言えるだろう。

ところが、さらに複雑なことになった。

日本にとっては好機となる事件が別の起こっている。

 

焦点:急成長の中国航空産業に不正部品疑惑、米国にも波紋 | ロイター より引用

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[上海 16日 ロイター] - 中国の航空機部品サプライヤーが、米飛行制御装置メーカー「ムーグ」(MOGa.N)に対して製造過程に不備のある部品を納品し、関連書類を偽造してムーグが認証していない工場に下請けを依頼していたと、米連邦航空局(FAA)の内部報告書が指摘していた。

ロイターが情報公開制度を利用して入手した2016年11月4日付の内部報告書は全9ページ。FAAはこの中で、影響がある部品273個が、米航空機大手ボーイング(BA.N)の旅客機777型機の翼の、スポイラーと呼ばれる着陸時の減速装置に装着されていると指摘した。装着されている機体数は明示されていなかった。

内部報告書は、問題の部品の名称や、装着された時期を特定していない。FAAとボーイング、ムーグは報告書の中で、航空機の安全性には影響はないとしていた。ロイターの問い合わせにも、メールで同様の回答を寄せた。

ムーグは、商用機と軍用機のフライト・コントロール・システムのサプライヤー。航空機業界では、航空機の安全のために重要な部品供給のトレーサビリティーや部品の品質は、厳しく管理されている。

 

今回の件で、直ちに安全性の問題が提起されるわけではない。

だが、世界最速で成長する航空産業を抱える中国が、外国の製造業者への依存を減らそうとするなかで、同国のサプライヤーや規制当局にかかっているプレッシャーの大きさを示している。

もちろん、これは中国だけの問題ではない。

日本の神戸製鋼所(5406.T)の株価は先週、大規模なデータ不正が明らかになり急落した。同社は、航空機や自動車に使われるアルミニウムや銅製品を供給しており、顧客は製品の安全確認に追われた。

急成長中の中国の航空宇宙産業は、競争の激しい世界市場に部品をより早く安価に供給することを狙っており、サプライヤーから引き合いが絶えない状態だ。米国の貿易統計によると、米国の航空宇宙産業への中国からの部品輸出は、2009年の約3倍の年間約12億ドル(約1350億円)になっている。

需要拡大により、それまで国有企業が主体だった航空機部品業界で、より小規模な部品メーカーの設立が加速している。

中国の航空宇宙産業は、単なる外国の航空機メーカーのサプライヤーではない。中国の航空会社は、ボーイングや欧州大手エアバス(AIR.PA)の最大級の顧客として名を連ねている。さらに中国はいま、国産ジェット旅客機を開発中で、初の狭胴型機「C919」は5月に初飛行を行った。

エアバスの品質管理担当マネジャーで、以前はムーグに勤務していた Mao Pingzhou氏は、中国はサプライチェーンの管理をさらに改善する必要があると指摘する。

「さまざまな手順が定められているが、従業員や監督者は必ずしも厳格に実行していない」と、Mao氏はロイターに語った。

ロイターの取材に対し、FAAはメールで回答を寄せ、内部告発者Charles Shi氏が指摘した安全性への懸念を調査し、指摘された内容のうち2件について事実と確認したと述べた。そのうち1件は対策が取られて終了した。もう1件は「ボーイングが修正策を実行してFAAが確認するまで、案件はオープン」としている。詳細への言及は避けた。

ボーイングは、ムーグとともに「2案件を調査し、すでに必要な修正作業は全て実施した」と回答した。また、「旅客の安全はわれわれの最優先の関心事だ」と強調した。

ムーグは、不正の指摘について「速やかに適切な調査」を行い、「疑惑の部品は全て飛行の安全に影響しないものだが、全て仕様に合致していることが確認された」とした。

FAAの報告書によると、ムーグが行った720時間超に及ぶ部品のストレステストでも異常は起きず、ボーイングはこれらの部品を航空機に装着したままにすることで合意した。

内部告発

 

Shi氏や同氏とFAAの間で交わされたメールによると、ムーグでかつて極東アジアサプライチェーン管理を担当していたShi氏が内部告発ホットラインに接触したことを受け、FAAは2016年3月にムーグの部品の調査に着手した。

Shi氏とムーグの同僚とのメールによると、Shi氏はそれ以前にもムーグで、サプライヤー蘇州市新鴻基精密部品(NHJ)が認証書類を偽造し、ムーグの許可なく下請けに依頼し、代替原料を使ったとの懸念を指摘していた。

ロイターは、Shi氏が語る内容を独自に確認することはできなかった。

Shi氏の指摘を受けて、上海にあるムーグのサプライヤー品質管理担当部門が2015年8─9月にNHJの内部調査を行い、NHJがムーグに納品する部品の認証書類の偽造を試みていたほか、無断で孫請けに製造を委託していたことが分かった。

認証書類がどの部品向けのものかは、ロイターが確認したムーグのメールからは定かではない。ロイターは、NHJがこうした行為を行う理由を断定できなかった。

「極めて不満が高まっている状況だ。中国の重点成長サプライヤーの1つが信頼できないということだ」と、ムーグの品質管理担当部門のマネジャーは8月25日付のメールにこう記した。

FAAの報告書は、NHJが部品を未承認のサプライヤーに外注する一方、下請け業者は製造記録をねつ造し、決められた製造過程を守らなかったと結論している。FAAは、未承認の代替材料を使用してムーグの部品を製造したとのShi氏の指摘には同意しなかった。

同報告書はまた、下請けで部品のカドミウムコーティングを行っていた南通申海工業科技が、必要の半分しか焼付工程の時間を取らず、製造記録をねつ造したと指摘した。

NHJ幹部のLi Jian氏は、ムーグの内部メールやFAAの報告書が指摘しているような違反行為はなかったと話す。

「検査で彼らがこうした事案を提起することはなかった。ムーグは正式ルートでわれわれに知らせるべきだったが、そうした連絡をムーグやFAAから受けたことはない」とLi氏はロイターに語った。

ムーグは、サプライヤーとのやり取りについてはコメントしないとしている。FAAは、コメントの求めに応じなかった。

南通申海工業科技のCheng Daoguang氏は、ロイターに対し、「製造工程記録を偽造しておらず、FAAからの訪問や査察はなかった」と述べた。NHJ向けにこうした部品を製造したのは2015年2─6月だったという。

Cheng氏は、NHJやムーグから守るべき基準について明確な指示はなく、本来は焼付時間をもっと長くとるべきだったと認識したのは、2015年8月にShi氏の訪問を受けた時だったと言う。

NHJのLi氏は、南通申海工業科技の問題についてコメントしなかった。

<不服>

Shi氏は、ムーグから解雇された後にFAAに接触したという。ムーグ側は、この解雇は「以前から伝達していたグローバル再編」の一環で、サプライヤーの品質問題を指摘したことが原因ではないとしている。

「Shi氏は、通常の管理プロセスの中で、ムーグのサプライチェーン組織内にいる人間がすでに対応済みの内容以上のものを指摘したわけではない」と、ムーグは説明している。

Shi氏は、米労働安全衛生管理局に対し、内部告発が理由でムーグから解雇されたとして不服を申し立てたという。米国の裁判官は先月、管轄外だとして申し立てを却下した。Shi氏はそれに対し、不服の申し立てを行っている。

(翻訳:山口香子 編集:伊藤典子)

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安倍総理には 日本の航空機産業に関わろうとする中小企業が前進するための様々な環境の整備に期待したいと思う。

 

自公310議席突破おめでとうございます。

 


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